「…なまえさんとするのって、どうしてこんなに気持ちいいんだろ」

 用の済んだコンドームの端をきゅっと結んでゴミ箱に放りながら、思ったままを口にする。代わりに引き出しの中にある新しいパッケージを手にして、シーツに埋もれたまま上がった息を整えているなまえさんの横に戻った。現役選手の俺と彼女の体力には雲泥の差があることはもちろん承知の上なので、様子を伺うように彼女の顔を覗き込む。ぎしりとベッドが沈み込むと同時に目が合うと、彼女は全てを解ったようにふんわりと微笑んだ。彼女はとことん俺を甘やかすのが上手いと思う。
 お互いの汗ばんだ肌が触れ合う度にぺたりと磁石のように吸い付くのを感じながら、彼女の鎖骨や胸の谷間に唇を這わせ、ちゅっちゅっとキスを落とす。先程はあまりにも余裕がなくて、性急な愛撫になってしまった、だからこその二回戦だ。それなのに、後頭部に彼女の手のひらが優しく差し込まれただけで、首筋がぞくぞくと震えてしまう。くそ、今すぐにでも彼女の両脚を抱え上げて、挿入してしまいたい。もう一度、ぐちゃぐちゃに溶けたそこを思い切り掻き回したい。そんな気持ちをどうにか堪えてお臍にキスをすると、白い肢体がびくりと微かに跳ねた。

「…どうしたらもっとなまえさんのこと、気持ち良くできるのかなあ、」
「んー?…いまでも、すごーくきもちいいよ」

 舌ったらずにそう言われて、脳の回線が熱くなる。違うんだ、もっと。もっともっと、貴方を夢中にさせたいんだ。俺が貴方に夢中なのと同じくらいの熱量で、俺だけを見ていて欲しいんだ。

「…何それ、そんなこと言われたら余計に燃えちゃうな」
「ん、…っ、ふ、とおるくん、なんかかわいい…」
「ははっ、可愛いのはなまえさんでしょ、」

 雄の闘争心みたいなものに火がついた俺は、ぐい、と彼女の股を開いて濡れた中心に舌を伸ばした。既に一度挿入まで済ませていることもあって、そこはこれ以上濡らす必要のないくらいぐちゅぐちゅに溶けている。彼女の弱々しい抵抗を無視して、難なく受け入れられた指の腹で温かい胎内を擦りながら、舌先では秘部の上のあたりを探る。彼女から甘い吐息が漏れた場所を攻めると、中に入れた指がぎゅっと締め付けられるのが分かった。内側からは追加の粘液が滲み出る。滑りを良くした指を手首ごと動かすと、しばらくして締め付けの間隔が狭まり、彼女の身体が一瞬強張って、とぷりとさらに蜜が漏れた。

「あっ…ぁ…はあ、っ…」
「……ほら、可愛い」

 絶頂したばかりのなまえさんにそう告げると、潤んだ瞳がゆっくりとこちらを捉えた。荒い呼吸の合間に彼女は微かに唇を動かし、やはり舌ったらずに俺の名前を呼ぶので、なあに、と言いながら耳を寄せる。

「…はぁ、…次は、とおるくんので、いっしょに、…ね?」

 耳元に彼女の熱い吐息を受けながら、どくりと下腹部に全身の血が集まるのを感じて、やられた、と思った。今の一瞬で、僅かに残っていたはずの余裕とプライドを、跡形もなく奪われたような気がする。固まった俺を差し置いて、なまえさんはのそのそと起き上がってコンドームに手を伸ばし、パッケージを切り、あまつさえそれをつけようとする仕草まで見せたので、俺はどうにか避妊具を持つ彼女の片手を制した。ちらりと目線の上がった彼女の茶色い瞳には、悪戯っ子のような怪しい光が見える。
 無言の攻防の末、なまえさんがふっと目蓋を伏せたかと思うと、柔らかな唇が俺のそれと重なった。唐突なキスに怯んだその短い間に、彼女は空いた方の手を俺の股間に伸ばしていたらしい。止める暇もなく、その細い指先が零れる先走りを塗り広げるように先端を撫でたので、思わずぐっと腹筋に力を込めた。結局どんなに足掻いたってこちらに選択権がないことを知らしめられ、掴んでいたもう片方の手首を放すと、彼女は気を良くしたのか少しだけ口の端を上げた。
 わざとなのかと思うくらい時間をかけて薄い皮膜を被せられる、その感触に息を詰めながら、そういえば初めてした時もつけてもらったな、とどうでもいいことを考える。少しでも気持ちを整えなければやっていられないくらいには、追い詰められていた。終いには、白いゴムに覆われたそれを根元から惜しむように撫で上げられて、頭の中で何かが弾け飛ぶ。

「っ…ああもう、ほんと…覚悟してね、なまえさん」

 どこかの悪役みたいな無意味な台詞を吐きながら彼女の細い脚を抱え上げ、先端を触れ合わせて粘液をいくらか纏わせる。これでは彼女の思うがままだと分かっていても止められず、そのあとひと思いに根元まで挿れてしまうと、焦らされた分だけ拾い上げる快感の量はとんでもなくて。許容範囲を超えたその感覚に俺は喉の奥で声を押し殺し、堪らずぎゅっと目を閉じる。上半身を倒してどうにか射精感をやり過ごす、その耳元をなまえさんの吐息が掠めて、目の裏でちかちかと火花が散るようだった。
 波が遠ざかったのを感じ、ゆっくりと息を吐き出してから少し腰を揺すると、短く甘い声が上がった。たった今、彼女の全身の快感を支配しているのが他でもない自分なのだという酩酊感が背筋を突き抜ける。続けて柔らかい内壁の奥をさらに押し込むように動くと、そんな俺の背中に、彼女が縋るように手を回した。触れ合う場所全てが溶け出しそうに熱く、本能が、下腹部に溜まった性感を押し出すように命令する。許されることならこの破壊的なまでの快楽にいつまでも溺れていたいと思いつつ、いよいよ脳髄が白く染まるその致命的な瞬間が近づいてくるとそれをもう止める術はなく、俺は動物のように腰を震わせた。

愛のままに我儘に
20190111

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