「…徹、?」
「…んー」
「もう寝たら」
「んー…」

 私を後ろから抱きかかえるようにして座る徹は、私の肩の上に顔を乗せたまま、まるで中身のない返事だけして微動だにしない。意識の半分は既に沈んでいるのだと思う。力の抜けた長い腕と脚にやんわりと拘束されて身動きも取れない私は、そんな徹にただただ呼び掛けることしかできなかった。
 部活で身体を酷使した彼が、夜ご飯を食べるだけ食べて食欲を満たし、こうしてだらだらとテレビを眺めていれば眠くなるのも当然である。その泥のような睡魔に逆らわせるのは、あまりにも酷だと思った。

「…とおる」
「…ん…、」
「…何か掛けるもの持ってくるから、」
「……でも…寝たら、勿体ない」

 折角なまえさんと一緒なのに、などと舌ったらずに呟きながら、彼は私の首筋に軽い頬ずりをした。同時にぎゅ、と少しだけ私を抱きしめる力が強まるのを感じて、いつもより甘えん坊を発揮している彼に胸がきゅんとする。眠いくせに、まだ寝たくないと駄々をこねる姿はまるで小さな子供のようだ。こんな可愛いところを見せつけられたら、どんな女の子でもイチコロなんじゃないかと思う。
 確かに部活で忙しい彼となんだかんだと予定の合わない日々が続いていたのは事実だった。明日がバレー部の午前オフということもあり、今日は泊まりに来て久し振りに二人でゆっくり過ごそうということになってはいたが、それでも、彼に今必要なのは私と過ごす時間よりも、純粋な睡眠時間だろうことは明らかである。

「…何言ってんだか。いい子はもう寝る時間よ」

 どうにか彼の腕の中から抜け出すため私はもぞもぞと身体を捻ったが、彼のしなやかな腕は堅牢でびくともしなかった。そんな中、いつの間に侵入したのか彼の長い指が服の下で臍のあたりを撫でるのを感じた。そのまま上に這い上がろうとするような、不穏な動きを見せる彼の手に危機感を覚え、私は服の上からその骨張った手首を抑え込んだ。
 彼の手首は、私のそれより一回りも二回りも太い。こういうふとした瞬間に彼が男であることを認識して、どきりと心臓が跳ねるのだ。一瞬だけ動きを止めた彼の手は結局、私の抵抗を物ともせずにブラジャーと肌の境目をなぞり始めた。まずい、どうやら彼の変態スイッチが発動している。

「っ、こら、」
「…なんか、目、覚めてきたかも」
「…徹、ちょっと…っ」
「…俺のこと、子ども扱いしたお返し」
「してないよ!」
「そうかなあ」

 首筋に、ちゅう、と音を立てながら吸い付かれて、身体が引き攣る。そのまま這い上がってきた唇が耳の裏に押し当てられ、彼の温度の上がった吐息を感じて僅かに鳥肌が立った。つい数分前まで、今にも寝息を立てそうな穏やかな呼吸をしていたくせに、一体どうしてこうなったのか。背中越しに感じる彼の体温も、心なしか熱くなっている気がする。

「…なまえさんが変に動くから、擦れてさ。俺、勃っちゃったんだよね」
…ね、しよ?

 さっきまでの可愛さはどこへ消えたんだと言いたくなるほど、余りに明け透けな物言いだった。確かに腰の辺りに押し付けられているそれが少し硬度を持っているのが伝わってくる。本当に、子ども扱いだなんてとんでもない。彼がどんなに凶悪で不遜な雄か、私は身をもって知っている。
 顔だけで振り返ると、さらりと唇を奪われた。唇を舐めて離れようとする彼を追うと、意図を察したらしい彼の顔が再び近づいてくる。彼が本気なら抵抗などするだけ無駄だった。私だって、したくないわけではないのだ。ただせめてベッドに行きたいと思ったが、キスに乗じてブラジャーのホックに手を伸ばした彼に、その気はさらさら無いようだった。

明日もこの手は繋いでいよう
20160825

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