彼女は俺の頭を撫でるのが好きなのだと思う。理由は分からない、ある種の癖のようなものだ。初めに言っておくと、俺は別に頭を撫でられるのが嫌な訳じゃない。彼女が俺に対して抱いている愛おしさみたいなものをそういう形で感じるのは決して悪い気分じゃないし、むしろ心地良くもある。彼女に甘やかされるのだって好きだ。
 ただ厄介なのは、彼女にそうされると時々、俺の中に原始的で凶暴な感情が生まれるという事実だった。なんというか、何か酷いことをして彼女を虐めたくなってしまうのだ。彼女が無意識に抱いている俺に対する安心感やら子ども扱いが、俺の中の何かに火を付けるらしい。まあ今のところ、そのことに彼女が気付く様子はないけれど。

「…なまえさんって、甘い匂いするよね」
「…こーら、どこ触ってるの」
「……ね、ベッドいこ」

 だから俺が彼女の「いい子いい子」を切っ掛けにしてこうして彼女をベッドに誘ったとしても、彼女は俺が若さ故の衝動で動いているとでも思っているのかただ全てを包み込むように笑うのだ。
 引き金を引いているのは彼女自身だというのに、当の本人はそれに全く思い当たらない。その事実に対して不満はない、なんなら彼女がいつこの事実に気付くのかと半分楽しんでさえいる。ただ、俺は単純にこの衝動を抑える術がわからないのだ。抑える気さえ起きない。そうして、結局のところ俺は彼女の寛容さみたいなものに甘えられるだけ甘えている。

「…っ…徹、ちょっと、待って…」
「んー…、?」

 ベッドに着くなりいきなり本気モードの俺になまえさんがたじろぐ。彼女の弱々しい制止なんて聞こえないふりで、中身の無い返事をしながら俺は好き勝手に柔らかい身体をまさぐった。だってもう知っている、彼女は俺の強引さに途轍もなく甘いってこと。
 日頃の子供扱いを嫌っておきながら、こんなときだけ彼女のそういう甘さを都合良く利用するのは我ながら狡いとは思うけど、この若い欲にそんな倫理が勝てるはずもなく、とにかく俺は甘やかされるまま彼女の身体の凹凸を確かめた。
 とんでもなく身体が熱い。あつい。脳みそと心臓が沸騰している。彼女の喉が漏らす小さな甘い悲鳴が耳に心地いい。彼女の体温が徐々に上がっていくのを感じて、俺の身体もまた連鎖するように熱を上げる。朱に染まるなまえさんの目元は殺人的な威力をもって俺を昂らせる。

「ぁ、…ん、ん…っとおる…」
「…なまえさん、腕緩めて、」

 ギリギリのところまで追い詰めて、泣きそうに眉を下げた彼女が本当に泣き出してしまう寸前のところで優しいキスをすると、なまえさんは子供のように俺に縋り付いてきた。それじゃあ動けない、と言って身体を離すと彼女は心許なそうな顔で俺を見上げる。ああ、ほらまた。なんて男を煽る顔だろう。これで平静でいろという方が無理な話だ。何と言っても俺は性欲真っ盛りの高校生。

「ねえ、舐められると感じる?」
「っ…だって、徹が」
「…こうされるの、好き?」
「んん…っ、…徹が、好き…っ」

 ───何だろう、この人。どうしてこの人は、こんなにも激しく俺の感情を揺さぶるのだろう。それもいとも簡単に、そして無意識に。こっちはもうとっくの昔に、この根底から掘り起こされる情動に飲み込まれてどうにかなってしまいそうだというのに、彼女は全く容赦が無い。容赦なく俺の何か大事なものを決壊させる。
 ねえ、どうされたいの、俺に。俺の好きにしてもいいの。滅茶苦茶にしてもいいの。あんまり俺のこと甘やかし過ぎると、元々ないような歯止めさえ効かなくなるよ。それでもいいの。それでも、俺のこと好きでいてくれるの。

「……も、喋んないで…、」

 もう勘弁して欲しい。これ以上俺をおかしくさせないで欲しい。だっていくら触れても足りないんだ。多分頭のねじが、一本と言わず何本かぶっ飛んでしまっているのだと思う。彼女への飢餓感は増すばかりで、もうきっと誰にも止められない。もしオトナになるってことが彼女へのこの感情にブレーキをかけることなのだとしたら、俺は子どものままでいい。いや、なんならオトナになんて一生なれないと思う。

ピーターパン症候群
20150408

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