家に入って、靴を脱いで、廊下に上がった瞬間だった。すぐ側の壁に囲い込まれてキスをされた。あまりにも熱烈なそれと、ごそごそと服の下に滑り込んできた彼の手にこれから起こるであろうことを察知して私は身を捩る。肩に掛けていたバッグは力なく床に落ちていた。
 二人きりになるのは久し振りだし、そういうことになるかも知れないと思ってはいた。けれど、少なくともそれは会わない間の他愛ない話をしたり、ごはんを食べたりしてから起こりうることだと思っていた私は見事に油断していて、今、明らかに体勢的不利である。力で敵わないことは明らかだったけれど、私は反射的な抵抗をやめられなかった。

「…ちょっ、徹…くん、」
「…、…なまえさん…」

 耳朶を食まれながら、熱い声で名前を囁かれると一瞬で腰の力が抜ける。落ちる、と思ったのに、私の脚の間に滑り込んでいた徹くんの身体が思いの外しっかりと私を支えていて、へたり込むことすら出来ない。彼の脚はほっそりしているように見えてもやはり運動部の男の子のそれで、私一人の体重くらいではぴくりとも揺らがなかった。
 そのまま力の入らない身体を好きなようになぞられて、私は半ばパニック状態で彼のシャツを握った。自分をそんな状況に追い込んだ張本人に縋るなんて馬鹿だろうか。本末転倒というやつかも知れない。でも、彼以外にいないのだから仕方ない。

「こ、ここ、玄関…っ」
「…ごめん…久し振りだし、俺ちょっと、余裕ないや」
「…っ、…」

 このまま、ここでしていい?と。荒い息を吐きながら彼が強請るように私を見る。苦しそうに歪められたその表情と、太腿に感じる熱いそれの感触が彼の欲情を痛いほどに伝えてくる。私は、久し振りの逢瀬に浮かれてワンピースを選んだ今朝の自分の浅はかさを少しだけ後悔した。こんなんで、駄目、なんて言えるはずがない。
 ───彼は、こんなにも男臭かっただろうか。まだほんの子供のように思っていた彼が、こんなにも雄の匂いをさせて私を追い詰めている。私は彼の熱い身体にあてられながら、高校生の成長は全く侮れないな、と他人事のように思った。

「……なまえさん…っ、…」

 徹くんは切羽詰まった呼吸を繰り返しながら私の下着を引き下ろし、そこに指を入れてばらばらと動かした。あの、ボールを自在に操っていた指先が今、自分の中にある。そう思うと何か少し恥ずかしかった。彼の指先はとても器用で、いつの間にか知られてしまったイイところを丁寧に擦っていく。

「っふ、…ぁ、徹、」
「…ここ、なまえさん、好きだよね」
「あ…っ、ん…!」

 成長期真っ只中とも言える彼の吸収力は正直眼を見張るものがあった。たどたどしく私の反応を伺っていた頃の可愛らしい彼は今や見る影も無い。もともと備えていたらしい優れた勘に加えて、この覚えの良さは厄介といえば厄介である。
 片手で器用にベルトを緩め、ゴムを着ける慣れた手つき。彼にこんなことを覚えさせたのが自分だと思うと、年上の立場も何もあったものではなかった。それでも、中に押し入り、切羽詰まった顔で性急に私を追い上げる、その表情は正しく欲求に塗れた高校生のそれで、私は少し嬉しいような、安心したような気持ちになる。

「っ…あつい…ね、なか…」
「ァ、…や、…っぁ、」

 壁に押し付けられ、身体ごと揺すられながら、言い知れない愛しさが込み上げる。忘れかけた必死さで私を求めてくれる彼が、どうしようもなく、好きだ。追い詰められて、全てを委ねてしまえるくらいには、大好きだ。
 ん、という小さな喘ぎ声と、押し付けられる腰。一際強く抱き締められながら、どくどくと欲が吐き出される気配を感じる。長めの射精が終わると彼の腕から僅かに力が抜けたが、それでも抱き合った体勢から動く様子はない。玄関先で最後まで致して、抱き合ったままという状況に居た堪れなくなり、私は鍛えられた背中をとんとんと叩いた。

「…徹くん?」
「……ごめん、ちょっとまだ…足りない」

 申し訳なさそうな声で呟く彼は、大人のようでいてやはり子どもであり、けれども間違いなく雄であった。中でむくむくと形を変えるそんな彼を、甘やかすことしか頭にない私はつくづく駄目な大人だと思う。

「じゃあ、ベッドで続きしよっか?」

剥がれる青
20150114

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