ぴりぴりとした喉の渇きを潤したくて、気怠い体に鞭打って体を起こした直後、下腹部に感じる独特の鈍い痛みに自然と顔が歪んだ。いつもの数倍はしつこかった昨日の晋助が脳裏に甦って大きくため息を吐く。
今更彼にそういう優しさを求めるわけではないが、ある程度の気遣いくらいはあって欲しいものだ。この痛みでは今日一日ほとんど動けまい。そう思うと私はまたため息を吐きたくなった。
「…どうした?」
起こさないよう気をつけたつもりではあったが、どうやら気取られてしまったらしい。寝起きの、鼻にかかったような無駄に低い声が骨に響く。晋助は本当、無駄にいい声してると思う。私は、この底の知れない声が好きだった。
「ん…喉渇いたなあって」
「…はん、あんだけ喘げばなァ」
「、誰のせいだと…」
「あ?誰のせいだよ」
そう言いながら口角をいやらしく吊り上げ、三日月のように目を細めてくつくつと笑う彼。枕に頭を乗せたままだというのに全く器用な男だ。
声を出す度に焼き付く喉、ずきんずきんと痛む下腹部。それなのに全ての元凶はそれを気遣う素振りすら見せずに平然と笑んでいる。なんて理不尽な男女差だろう。この男にも一度くらいは、この痛みを味あわせてやりたい。
「お盛んな晋助サマのせいですう」
「…へえ?そうか」
上半身だけ起こした私の腰に晋助の腕がするりとまわり、そのまま引き寄せるように後ろへと倒される。受け身もとれずに私の身体は布団へと倒れ込んで、その衝撃で腰にはしった鈍痛に眉根を寄せる。
そりゃあ彼にだって、気紛れのような優しさをくれる時があることは認めよう。けれどそれは極々稀な話で、基本的には気遣いも何もあったものじゃない。
「っ…ちょっと、…」
「…エッロい声で、」
そのまま覆い被さるようにのし掛かってきた晋助の体が重い。触れた肌から直接伝わる体温が熱い。私の制止など聞きもしない、瞳孔の微かに開いたその鋭い視線に射貫かれて、未だじりじりと燻っていた内側の熱がじわりと温度を上げる。
着崩れた着物の間で晒された彼の身体は、相変わらず細いながらも上質な筋肉に包まれていて、なんともいえない妖しさがあった。
「やァらしく、俺を誘ってんのはお前だろ…?」
「ゃ……っ、」
耳元で落とされる音に身体が過敏になって、鼓膜の振動が直接子宮を震わせる。そのまま耳殻を口に含まれればびくりと肩が跳ねた。そんな私に気を良くしたらしい晋助が、その膝で太腿の奥を無遠慮に刺激してきて、私は零れそうになった甘い声を噛み締めた。
甘い痺れに少しでも耐えるべく手元のシーツを縋るように握ると、睨んだ先の彼は楽しそうに喉で笑った。
閉鎖された夢語り
20110820