壁内に戻ってきた隊列の中で目があった。彼の口が、「来い」と小さく動くのが見えて、だから私は今夜も彼の部屋の扉を叩いた。それはほんの数秒で交わされ、一瞬で成立する合意だ。そうして部屋を訪れた私を、彼は貪るように抱く。

「、ふ…っぁ、…っ」
「っ……く、」

 死と隣り合わせの場所で常に戦い続ける私たちの生殖本能は並大抵のものではない。それに抗う意味もなかった。互いに生殖の意図もなく、ただ滑稽な本能がそこにあった。現実は常に、あまりにも厳しく、重く、私たちにのしかかっている。

「…悪い、……足りねえらしい」

 欲を吐き出したはずの彼は熱い息を吐きながら唸るようにそう呟いた。確かに彼のものは萎える様子もなく形を保ったままだ。私はそんなリヴァイに何の衒いもなく頷き、誘うように彼の刈り上げられた項の辺りを撫でた。そうすることしかできなかった。
 彼は小さく私の名前を呼んで、私の首筋に吸いつき、ゆったりとした動きで確かめるように私の肌をなぞっている。そうしてしばらくすると、静かに私の脚を持ち上げた。

「っは…、なまえ…」
「、っぅん…っ、ぁ、…ん、んっ」
「…噛むな、」

 私はいつも、彼にかけるに相応しい言葉を見つけ出すことができなかった。そしてリヴァイもまた、私にかけるべき言葉を探しあぐねているようなところがあった。どんな言葉も、この感情には相応しくないのだ。───慰めたい。哀しい。抱き締めたい。泣いて欲しい。赦したい。愛してる。きっと全て正解で、そして全て間違っている。
 だから私たちの交わす言葉は僅かだった。けれど、ただこうして側にいて、吐息を触れ合わせているだけで伝わるものもある。強い快感に思わず噛み締めた唇を、優しく撫でる指先から、切なく呼ぶ名前から、伝わるものもある。それで十分なのだと思った。

「……なまえ…」
「ん…、」

 ことが終わると、部屋に立ち込めていた静かな熱気は少しずつ冷めていった。じんわりと肌を湿らせていた汗のせいか、少し肌寒いくらいだ。私はすぐ隣に感じる人肌の熱を心地よく感じながら、ぼんやりと天井を見つめていた。

「…暑いな、」
「…んー、…どちらかといえば寒いよ」

 大して寒いわけでもなかったけれど、決して熱くはないだろう。シーツを手繰り寄せながらそう訴えると、リヴァイは少し考えるように間をおいてからそっと私の肩を引き寄せてくれた。密着する彼の肌はまだ火照るように熱く、僅かに汗ばんでいるようにさえ感じられた。
 先ほどまではシャワーを浴びに行く気力もなかったが、やはり浴びてきた方がいいだろうか。いや、でも、この心地良い空間から離れたくない。

「ああ…確かに、お前は少し冷えてるな」
「…暑くないの?」
「…、いや…少し冷たくて丁度いい」
「ふふ…私も、あったかくて気持ちいいよ」

 触れ合う肌の体温がだんだんと混じり合い、温くなっていくのを感じながら私はゆっくりと目を閉じた。この温もりはきっと生きる糧になる。シャワーを浴びるのは、やっぱり明日の朝でいいと思った。

月の裏側を見せてくれ
20140206

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