触れるだけの口付けで甘く酔わされている合間に何の滞りもなく、けれど優しくゆっくりと衣を剥かれ、暴かれていく身体。貴方にはきっと解らない。その手馴れた仕草が私をどんな気持ちにするのか、貴方には一生解らない。
 私は初めてでも、バーナビーはそうじゃないんだ。どうしようもないことだし、それで彼を責めるような気持ちには決してならないけれど、ただその事実が厳然とそこにあって、私の胸を締め付けた。

「…なまえ、口、開けて」

 彼の長い指先に誘われるままおずおずと頬の力を緩め、口を開けると、彼の舌がするりと口内に侵入してくる。その舌に絡め取られて、翻弄されて、自分の思考回路が鈍っていくのが分かった。
 鈍ったままの思考の中でちゅ、と小さく音をたてて離れていく感触を感じてそっと目を開ける。目の前にいる彼がどこか切迫していたような顔をしていて、身体の芯がじくりと痺れる感じがした。そうしてすぐに鎖骨のあたりにバーナビーの唇が優しく触れ、そのまま彼の指が私の背中を探っていく。

「…っん、バーナビー…っ…」

 なんだか堪らなくなって、上擦った声で名前を呼んだ途端、下着のホックを外そうとしていた彼の手がピタリと止まった。何か不手際があっただろうかと不安になってもう一度名前を呼んでも、彼は私の肩にこてんと頭を預けたまま、何も言わずにふう、と浅い息を吐きだすだけだった。
 私は熱くなった心臓が一気に冷えていくような心地で、何か言うべき言葉を探した。こんな状態で止められてしまうなんて、よっぽど何か私に問題があったに違いない。どうしよう。恥ずかしい。居た堪れない。

「…バーナビー…?あの、私何か…」
「…違います、から…少し、待って」

 くぐもった声と重なるように、彼の吐息が直接肌にあたる。バーナビーは私の肩に頭を預けたままで、私は彼がどんな顔をしているのか分からなかった。それでも、なんとなく分かった、かもしれない。

「…バーナビーも…緊張、してる…?」
「…してないはず、ないでしょう」
「ふふ…っ」

 不貞腐れたような顔をするバーナビーに思わず頬を緩ませると、彼は少しだけ眉を寄せた。何がおかしいんです、と言うのと同時に、動きを止めていたはずの指先で器用に私の下着のホックをはずしたバーナビーに私の一瞬の余裕が掻き消える。
 ずるい、と零すとバーナビーは、貴方の方がずるいですよ、と苦笑した。私のどこがずるいのかと尋ねてもバーナビーは目を細めて苦く笑うだけで答えないから、やっぱりバーナビーの方がずるい。

「…大好きな人の初めてなんて、緊張して当たり前ですよ…」
ちゃんと、気持ち良くしてあげたいんです。

 バーナビーはぼそりとそう呟いて、そっと私の体のラインを辿った。時折顔を上げて私の顔を見る彼の瞳は、いつもは透き通るように軽やかなエメラルドなのに、今は底のないどろりとした深い色をしているように見える。

「…っん…、…っ」

 お臍の周りを擽っていた彼の指がゆっくりと下へ下がり、その奥に触れたところで、私はぎゅっと目を瞑った。恥ずかしいのか、怖いのか、嬉しいのか、いろんな感情と一緒にじわじわと快感が体の内側を満たしていく。
 はあ、と慎重に吐き出される彼の息が熱い。優しいキスに促されて目を開けると、思い詰めたような顔をしたバーナビーがじっと私を見つめていた。男の人の顔だ。そして真剣な顔だ。
 怖いですか、と静かに聞かれて、私はこくりと頷いた。それでもやめて欲しくはないのだと目で訴えると、彼が眉を下げて笑う。申し訳なさそうに、でも、嬉しそうに。彼のこんなに情けない顔を見られるのは、きっと世界中で私だけだろう───私だけだと、いいなあ。

「…なまえ…力、抜いて?」
「ん…、バーナビー…、っ」

 そこまで考えたあとのことはあんまりよく覚えていない。ただ、優しく私の指に絡んできた彼の手が普段の数倍熱かったこととか、気づかないうちに流れていた涙を舐めたバーナビーが、初めて見るような色をしたエメラルドグリーンで小さく笑った顔がものすごく格好良かったこととか、そんな断片だけが脳裏に焼きついている。

絡ませた舌から微熱
20131118

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