風呂上りの少し火照った肌に、夜の冷えた空気が心細い。寒い、と思った。誰かに温めて欲しいと思った。いつの頃からだろう、寒いのは嫌いだった。
 優しくされたいわけでも、まして理解されたいわけでもない。私はそんなことを望むような育ち方をしていない。ただ、粗暴の限りを尽くすような苛烈な熱を、この肌で直接感じていたいのだ。それだけあれば十分で、だから、きっとそれだけのことなのだろう。

「なまえ、…早く来い」

 晋助はいつもそれしか言わなかった。戦に向かう時も、町に下りる時も、何かの交渉に出掛ける時も、そして、褥を共にする時も。

「…しんすけ」

 布団の上で紫煙を燻らせる彼に、どこか頼りないような気持ちで声をかける。そのままいそいそと傍に寄っていくと、晋介はどうしたんだという顔で意外なほど優しく私の髪を撫でた。こうして気まぐれに優しくされると、どうにもときめいてしまうから困る。まあ、こういうところに女たらしの気質を感じるのわけだけども。
 甘えるような気持ちで彼の胸に寄りかかると、髪を撫でるだけだった晋助の手が首筋を擽るようにして遊びだしたので、私は目を閉じてその感触に集中した。行為の前に私の髪や項の辺りを触るのは彼の癖だ。

「………顔、上げろ」

 そうして暫く遊んで満足すると、今度は私の咥内を探ろうとする。言われるまま顔を上げれば予想通り、唇に柔らかな感触。口を開けて舌を絡めて、ぴちゃり、くちゃり。水音の合間に漏れるくぐもった自分の声と、彼の荒い吐息が少しだけ気恥ずかしい。なんて今更そんな生娘みたいなことを思う自分が可笑しかった。
 初めて彼に触れられた時のことは、今でもかなり鮮明に覚えている。なんせ彼と違って、私にとっては本当の「初めて」だったのだ。今と変わらず迷いのない掌の熱い感触だとか、獣じみた苛烈さの中で僅かに怯えたような色を滲ませていた表情だとか、そういうものに圧倒されて、押し流されるように彼に抱かれた。

「…んん…、…はぁ…っ」
「は…っ、…あちぃな、お前…」

 長い口付けが終わると、彼は私の首筋に顔を寄せ、襦袢の合わせから骨張った掌を差し込んで、かさかさとした皮膚の硬い指で私の身体を撫で始めた。ああ、刀を握るあの手が今、自分の肌の上を滑っているのだと思うと言いようもなく興奮してしまう。
 身体の輪郭をなぞられ、そのまま少し乱暴に胸の突起を擦られて、じんじんと腰が疼く。首筋に噛み付かれると先程まで感じていた寒さが嘘のように身体が熱くなった。

「…はぁ、あ…っ晋助、」

 帯を解かれ、彼の手は徐々に下へと降りていく。気づけば乱雑に肌蹴られた衣服に身体の自由を奪われていた。不自由は私の快楽を煽り、感度を上げる一因だ。そんな状態で太腿の内側を何度か撫で上げられると小刻みに身体が震えてしまう。思わず強請るように名前を呼ぶと、彼は一度熱い息を吐き出してから乱雑に着流しを脱いだ。露わになった、洗練されたしなやかな雄の身体に、くらり。

「…なまえ、…腰上げろ」

 こういう横暴な口調に感じてしまうのは不本意だけど仕方がない。言われるまま腰を浮かすと彼は感触を確かめるように熱の先端を粘膜に擦り付け、そうして、一気に。

「ん……っあ…!」
「…逃げんな…、っ」
「っひぅ、…っあ、あ、晋助…っ、」

 無意識に逃げてしまう腰を掴まれて、ぐいぐいと彼の熱を押し込まれる。濡れてはいても大して慣らされていない内壁が彼の形に押し拡げられ、少しの痛みとそれを上回る快感か身体の中で渦巻いていく。その渦に呑み込まれながら私は譫言のように何度も彼の名前を呼んで、彼の背中に爪をたてた。
 彼が一瞬息を詰め、どくりと中の質量が増す。劣情を瞳に浮かべ、痛みに眉を顰めながら、それでもにやりと不遜に嗤って見せるその顔が、あの夜から私の心臓を締め付けている。

残像の向こう側で陶酔
20130205 

「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -