拍手鳴り止まぬ舞台公演を、私はこの、五番のボックス席から密かに見つめている。
このオペラ座の舞台の出来、踊り子達の様子、音程の良し悪し、役柄に心が伴っているか…など、見るべき点は幾らでもある。
総合芸術と言われるオペラ。
何一つ欠けてはいけない。
そして、私にはもう一つ肝心なことがある。
今、金色のドレスを纏いて踊り、その艶やかな声でソロを歌い上げる彼女…クリスティーヌ・ダーエ。
私の宝物。
彼女は素晴らしい声の持ち主であり、心は聡明で、美しい。

「クリスティーヌ…」

一番心配な、箇所を見事歌い上げ、クリスティーヌは舞台袖へはけていった。
もうクリスティーヌの出番は無い。
私は僅かに微笑み、ボックス席を後にした。



ーーーーーー





「さて、今日の出来だが、よく出来ていたな」

暗い地下に、蝋燭が灯り、聡明なクリスティーヌを色づいたように照らす。
彼女は、私の評価に明るい表情を示し、バッと立ち上がった。

「嬉しい!」

私は人差し指をあげれば、クリスティーヌの表情は拍子抜けしたものと変わる。

「だが、音程にミスがあったな」

「…はい」

クリスティーヌまるで、ばれてたのか、と落胆したような、そんな素振りをした。

「私を騙すなど、百年早いぞ。クリスティーヌ」

「そうね。そうだったわ」

「さ、お腹減っただろう。林檎パイと、紅茶でも飲んで、ゆっくりするんだな」

疲れただろう。
手作りの林檎パイと、取り寄せた紅茶をクリスティーヌに差し出す。
甘いものが好きなクリスティーヌは、目を輝かせて食べ始めた。
美しい。
彼女に日に日に惹かれて行く。
ただ、こうして居るだけで幸せだ。
いつか彼女には世界一を見せてあげたい。
プリマドンナという立場からの、世界の頂点を。

「クリスティーヌ…」

「なあに?」

「す、…いや、何でもない。さ、それを食べたら戻った方がいい。皆が心配する」

好きだ。
何度思い、何度心の中で呟いた事だろう。
そして、何度その身を脳内で犯しただろう。
汚い。私はこんなにも汚れている。
私は右手を差し出し、彼女の頬を撫でる。

「…」

「…?」

好きだ、クリスティーヌ…





fin
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