「…許嫁?」

「はい、許嫁です」

その日、後藤は目を丸くしながら目の前の山崎ひろみを見上げた。
ひろみは顔を赤くしながらもじもじ指をいじっている。
後藤は再び写真に目線を戻す。
その写真に乗っているのは、美女。
沖縄の顔立ちをした、美女だった。

「こりゃ相当な顔立ちだな」

後藤はひろみに写真を渡すと、タバコを一つくわえた。
ひろみはニコニコして写真を大事そうにしまう。
タバコに火をつけようとしたが、山崎がタバコを苦手だと言う事を思い出し、やめた。
隊長室は今、後藤と山崎の二人だけであった。
第一小隊は出動中であり、外はのんびりとした春の陽気に包まれている。

「…ま、座りなさいよ」

ストックのパイプ椅子を指させば、山崎は素直に椅子をとって来て、後藤の机の前に広げて座った。

「綺麗な人だね」

「ボクもそう思います。なんだか、自分には勿体無いですよね」

「いや?いいんじゃない?山崎は家庭的だし、うまく行くと思うよ」

「そ、そうかなあ」

山崎はてへへと顔をにんまりとさせている。
後藤は何だか羨ましくなり、聞いた。

「…沖縄に帰ろうとは思わんのか」

山崎は一瞬驚いた顔をしたが、真面目な面持ちになる。

「…思いません。警察のお仕事は天命だと思ってますし、それに」

再び顔に赤みがさす。

「いつか彼女をこっちに呼ぼうと思ってるので…」

山崎の顔は緩んではいたが、目は真剣そのものだった。



ーーーー



「へぇ、山崎巡査が?」

「うん。もうさ、羨ましくて仕方なかったよ」

「ふーん」

夜。
後藤は上半身裸で、寝転がってタバコをふかしていた。
その隣で、パジャマ姿で髪を乾かすしのぶ。
後藤は何だかいじけたような表情でしのぶを布団の中に引き込んだ。
覆いかぶされば、しのぶさんのいい香りがした。

「しのぶちゃん。真面目に聞いてる?」

「聞いてるわよ。山崎巡査は家事、菜園、飼育何でもできるものね。良い旦那さんになるわ」

「しのぶさんのばか」

そのまま胸に顔を埋めれば、しのぶは困ったような表情を浮かべた。

「どうしたのよ。今日は随分とご機嫌ななめなのね」

ぽんぽんと頭を撫でてやれば、んー、と後藤が唸る。

「………許嫁」

「え?許嫁?」

「しのぶさん、許嫁になってよ」

「…は?」

「しのぶさああん、俺のお嫁さんになってえ〜」

顔をあげず、胸にすりすりと頬ずりしながらごねる。
「…ちょっと、後藤さん。酔ってるの?」

しのぶは起き上がり、胸から顔を引っぺがした。

「……しのぶさん…」

その顔は悲しげな表情だった。
今にも泣きそうな表情。
しのぶは言葉に詰まった。

「俺の、嫁になってよ…」

しのぶを真っ直ぐ見据え、そうつぶやいた。

「…変なプロポーズね」

しのぶは後藤の頬を撫で、唇を寄せた。
ちゅっとリップキスをし、にこりと笑った。

「元気だして。そしたら答えなくもないわ」

「…うん」

後藤ははにこりと笑い、ぎゅっと抱きしめたのだった。




fin
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