「それどういう意味よ」
「いや?そのままの意味ですよ?」
ニヤニヤを堪えきれない。
百円をいれ、ボタンを押し、アーム自体を横に動かす。
「あら?後藤さん。止めるの早過ぎない?だいぶ左だけど…」
俺がアームを動かした位置は、プラスチックの板よりだいぶ左だった。
さらに奥へ進め、アームが広がり、下がった。
「あっ!」
「ね?」
アームの爪先はプラスチックの板右ぎりぎりの入り込み、大きく左にずらして行って上に上がって行った。
「皆よく取りたい物の真上にアームを持ってくるけど、それは効率が悪いと思うよ。どうせなら揺れ幅は大きい方がいいでしょ。だから対象物ギリギリにどちらかの爪先を滑り込ませるの。力も1番強いしね。けど、皆真上に持ってくるから商品があまり動かなくてお客は癇癪を起こす。「なんだこれは詐欺だ!買った方が早い!」とかね。だから、動かしたい方向手前にアームを持ってこれば大抵は動くよ。」
「へぇ、そうなの」
知らなかったとしのぶさんは口に手を当てた。
「それとは関係なく故意に動きにくくしてる店はあるみたいだけどね。…この動き具合は千円もかからないや。ラッキー」
一気に五百円をいれ、プラスチックの板をどんどんずらしていく。
そのプラスチックの板が動くたびに右隣りにいるしのぶさんが声をあげる。
可愛い。
本当に来たことないんだなあとか内心笑っていたら、ガゴンッ!と音を立ててプラスチックの板、並びにうさぎの抱き枕が落ちた。
「後藤さん凄いわ。六回で取れるなんて」
「…まぐれだよ」
そのあと店員がラッパを鳴らして商品を袋にいれてくれた。
真空パックされたうさぎの抱き枕は、案外大きく、折りたたまれてはいるがしのぶさんの3分の2はありそうだ。
「…あの、白い方もセットお願い出来ますか」
店員にそう言うと、「はい分かりました!」と鍵を取り出した。
しのぶさんはこっちを見て首をかしげている。
また取るの?そんなことが顔に出ていた。
「お揃い」
そう言うと、しのぶさんの顔が赤くなり、店員はセットが終わると一礼してどっかに行ってしまった。
次は九回目で取れた。
一つの袋にうさぎの抱き枕を二ついれ、俺が持つ。
心なしかしのぶさんがニコニコしてる気がする。
この調子なら手をつなげそうだ。
しのぶさんをちらりと見てそーっと手を繋ごうとした。
「想像以上だわ」
しのぶさんが不意に変なことを言い出した。
出しかけた手を引っ込め、聞く。
「どうしたのいきなり」
「私、後藤さんと一度こういう所来るのが夢だったのよ。想像以上に楽しいわ」
夢。
夢ねぇ。
あのしのぶさんが意外な単語を使うのを見て、なんだかいい意味で変な気分になった。
俺も夢を言ってみるか。
「あのさ、しのぶさん」
「何?」
しのぶさんがこっちを向いた。
本当に綺麗で、少しだけ息が詰まった。
「…俺の夢なんだけどさ。家に帰ったらしのぶさんと、俺達2人に似た子供が迎えてくれる、それが俺の夢なわけ。その夢叶えてくれたり…してくれるよね?」
「へっ?」
自分でも変な事言ってると思う。
だってここはゲームセンターで、二人してクレーンゲームの前に突っ立って、良い歳した中年男がプロポーズ。
けど、言うのはここしかないと思った。
しのぶさんはそっぽを向き、言った。
「み、水虫っ、治してからなら受けない事もないわよ…」
「ありゃ。明日から通院するか」
自分も火照った顔をごまかしながらしのぶさんの手を取った。
凄く凄く、熱かった。
fin