「……南雲隊長に、手料理」

その言葉はとても重く、それでいて衝撃的かつ説得性があった。
三人の間に、少しの時間が流れる。
遊馬が堰を切ったように話しだす。

「後藤隊長は思いついた!そうだ!南雲隊長に手料理を振舞おう!そう言って席をたった後藤隊長しかし!いまいち腕に自信がない。そりゃ伊達に1人暮らししてるわけじゃないから一応は作れる…だが!万が一南雲隊長の口に合わなかったら?雲行きが怪しくなってきたが、雲はすぐに晴れた。何故なら!我が第二小隊には、料理を作らせたら一級品。まずいものは作らない山崎ひろみちゃんたる者がいるではないか!そう、奴だ!奴に教えてもらおう!と後藤隊長は行動を取るのであった!」

「凄い!遊馬凄い!多分そうだよ!ね、太田さん!」

「案外そうかもしれん…」

遊馬の熱き説明に同意する2人。
そして、廊下から良い香りがただよってきた。
カレーである。

「いいにおーい。夏カレーかな」

「俺はチキンカレーに賭けた!」

「賭け事はいかんぞ賭け事は」

そんなやり取りを続ける事数十分。
山崎が大きな鍋を持ってやってきた。

「皆さん、ご飯ですよ」

そこでやっと野明は自分が食事当番だという事に気づいた。
急いで山崎に近寄り、鍋を受け取る。

「ごめんねひろみちゃん!今日私が当番だった!作ってくれて助かったよー。次の当番代わるね」

山崎は少し照れて首を横にふった。

「いやぁ、こういうの好きですから大丈夫ですよ」

「ところで山崎、隊長と何をしとったんだ」

太田が核心をつき、言い放った。
いきなりかよ馬鹿!と内心思った遊馬だったが、気になるのが大きく、山崎をちらりと見た。
山崎はにっこり笑って言った。

「料理のお手伝いをと言われまして、お手伝いしてました。ついでに夕食も」

「ついでに夕食もって事は、隊長なにつくってたの?」

野明が鍋を机に置いて振り向いた。
山崎はやかんを持ち上げる。

「トマトクリームパスタですよ」


ーーーーー


こうして第二小隊で話題にされているとうの本人は、熱々のパスタを二皿、フォークを両手に持ち、隊長の前にいた。

「しのぶさーん?ちょっと開けてくれる?」

はい、と中から声が聞こえてドアががちゃりと開いた。
パスタを見てびっくりしている。

「あら、今夜はパスタなの?本当に第二小隊は凝ったもの作るのね」

中に入り、一つをしのぶの机に置いた。
ドアを閉めたしのぶは自分の席に座る。
後藤も自分の席に座り、一息ついた。

「これね、俺が作ったの。あいつらはナスカレー」

「え?これ後藤さんが作ったの?」

えっへんと後藤はにこにこした。
しのぶさんは、いただきます、と手を合わせたあとフォークを取り、パスタを巻いて一口食べた。

「あら、とっても美味しいわ」

「でしょ?伊達に1人暮らししてるわけじゃないよ?」

「でも、これ山崎君に手伝ってもらったわね」

しのぶの言葉に目を丸くする後藤。

「どうして分かったの」

しのぶはクスリと笑い、パスタを食べる。
後藤は、手料理でアプローチ作成失敗かなとか思いながらパスタを一口食べた。

「勘よ。後藤さんがこんな美味しいもの作れるとは思えなかったから」

「ひどい。しのぶさんそりゃひどいよ」

思い切り拗ねた顔をしてちびちびとパスタを食べる。

「そうね、貴方が料理上手くなれるように…私が一生鍛えてあげてもいいのよ?毎食」

その言葉に後藤が驚いて顔をあげる。
しのぶはパスタに目を落としたままだった。

「しのぶさん、それってさ…」

「そ、それにしても、このパスタ本当に美味しいわね。山崎君小さい頃からお手伝いしてたのね、凄いわ」

照れ隠しなのか、パスタを食べ進めるしのぶ。

「しのぶさあん!」

嬉しくて嬉しくて、四十をこえた中年男の人は、席を立ってしのぶに抱きついた。




fin
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