「おーい、山崎。ちょっといいか」
午後五時。
野明と休憩していた山崎が、後藤に呼び出された。
山崎は、はいっと返事をし、自分の机にお茶を置いて後藤と出て行った。
「ひろみちゃんが隊長に呼び出されるのって…珍しいよねぇ」
野明がみんなに話しかける。
「だよなあ。今日も特にミスは無かったし…それにしても腹減ったなー」
そういいながら遊馬はホワイトボードを見た。
「あ、野明!お前今日メシの当番じゃなかったか?」
「あ、そうだった!ひろみちゃんいないけど、まぁいいかあ」
野明は急いで立ち上がり、慌ただしく出て行った。
それを見て太田が口を開く。
「どーしてメシ作るのに山崎がいるんだ」
「味をひろみちゃんの舌に合わせるんだってさ」
遊馬は報告書をとんとんと整理した。
ーーー
野明が今夜の献立を考えながら給仕室に向かうと、何やら山崎と後藤の声が給仕室から聞こえてきた。
ドアに張り付き、そっと聞き耳を立てると
「オリーブオイルは無いので、サラダ油で何とかしましょう。あ、そこでコンソメをいれてください」
「一個でいいんだよな?」
「はい」
…料理を作っているらしい。
しかも、山崎が後藤に料理を指導しているらしい。
何故?
野明は考えたが分からなかった。
ーーーー
その頃、遊馬はお茶を入れ直し、太田は握力のトレーニングをしていた。
紳士は非番である。
「でもよ、ひろみちゃんって本当に面倒見が良いよなあ」
「うむ、否定はできんな。」
遊馬がお茶が入った湯呑を太田の机に置くと太田を見るなり笑った。
「何だぁ、気色悪い」
「べっつにー。ひろみちゃん家事から仕事までできるから、結婚したらちったあ丸くなるのかなと思ってさ」
「なっ!?何言っとるんだ貴様!この国で男同士結婚できるわけなかろう!」
顔を赤くし、遊馬が言ったことに対し指摘をする。
指摘はそこかよ、と内心遊馬は思ったが黙っておくことにした。
そんな時、野明がバタバタと走ってきた。
「大変大変!大変何だってば!」
「何だ泉、騒々しい」
「隊長がひろみちゃんに料理教わってる!」
野明の一言に二人は顔を見合わせ、盛大に笑った。
そんな二人の反応に野明はふくれっ面になり、言った。
「嘘だと思ってるでしょ!本当だよ!オリーブオイルじゃなくて、サラダ油使ったり、コンソメ入れるとかいってたもん」
「悪い悪い。にしても、何でだろうな」
「隊長も独り身だ。少しは料理作れなきゃ困るんだろ」
そうだ、それしかないとばかりに太田が湯のみに手をかけた。
それに待ったをかけたのが、遊馬であった。
イングラムの産みの親である篠原重工の御曹司、篠原遊馬。
まさに彼が、待ったをかけたのである。