「ふぃー、お先でした」
お風呂から上がり、居間に来てみればしのぶちゃんがご機嫌斜めなご様子で、鞄から着替えを出しているところだった。
どうしたんだろ。
「どうしたの、しのぶさん」
「服くらい着たらどうなのよ」
ああ、服装ね。
まったく、かわいいなあもう。
「やだ。どうせまた脱ぐじゃないの」
そう言ったら、軽く頭を叩かれしのぶさんは浴室に消えた。
ちぇ、本当の事じゃない。
俺は頭をガシガシと拭きながら、ソファに座った。
今日はしのぶさんがうちに泊まりにくる日。
ついついにやけてしまう。
しのぶさんの可愛いのなんの。
突き放しといて、後から心配してくれたり、結局は甘えん坊な所とか、そりゃたまには怖いけど、その後のしのぶさんは格段に可愛く見えちゃうんだなこれが。
さりげない仕草、目の動き、たまにしか見せない表情、凛として気が強い性格、全部全部好き。大好き。
「しのぶさん!すきだよー!」
浴室の方にそう叫べば、うるさい!、と返されてしまった。
なんだか、たまらなくなって、浴室のドアを開け、お風呂場のドアも開ける。
「きゃっ!何っ!」
「すき!すきだしのぶさん!」
シャワーを浴びていたしのぶさんを、これでもかと言うほど抱き締めた。
背中を叩かれ結構痛いけど、別にいいんだ。
「ちょっと、離してよ!」
「やだね。ちゅーしてくれたら離す」
「いい大人が何言ってるのよ!」
「いーじゃない。こんなこと言えるのも、恋人の特権…あれ?」
いきなりしのぶさんが抵抗しなくなった。
顔を覗き込むとそこには
「ひっ!」
「私に…触れるなああああああ!」
怒り狂ったしのぶさんがいた。
ーーーー
「あれ?隊長、その手首どーしたんですか?」
朝、出勤するなり篠原が聞いてきた。
昨日、あれからしのぶさんが怒り狂って一晩中手錠され、テーブルの足に固定されていて手首が真っ赤。所々擦り切れていて、紫色に内出血までしている。
「これな。知りたいか」
「まぁ、知りたいです」
「これね、愛の印」
「はあ?」
本当に意味が分からないのか、それとも分かってて意味が分からないのか、大きく顔を歪ませ答える篠原を背に、隊長室まで歩き出す。
愛の印ってのは本当。
昨日は一晩中テーブルの足とのお付き合いだったけど、聞こえてたんだ。
しのぶさんが布団に入るとき
『私も好きよ』
って言ったのが。
だから、この位平気な訳。
逆に嬉しいくらい。
俺はにこにこしながら、隊長室へ向かうのだった。
fin