そんな訳で、しのぶさんと軽井沢にあるラブホテル来たわけだけど、ホテルの名前は緊張して覚えてないし、しのぶさんが選んだ部屋はなんとまぁ可愛らしいというかムードが欠けるというか…しのぶさんの意外な一面が見れてちょっと嬉しい。
さてさて、今この状況は期待外れな結果になってしまった。
しのぶさんはベット、俺はソファー。
一緒に寝たかったなあ。
ただ、気になることが一つだけ。
さっきしのぶさんが起きて来て、タオルを掛け直してくれた後のこと。
それから寝息が聞こえてこないのだ。
つまり、起きてるってこと。
どうしよ。
でも、きっとしのぶさんの事だから、俺が起きてる事くらい知ってると思うの。
だけど、そこをあえて声をかけずにタオルを掛け直してくれた…これはどういうことだろうか。
ま、悩んでも仕方ないか。

「…しのぶさん」

「なあに?」

しのぶさんの方を見れば、目を閉じたまま返事をしていた。

「その、寒い?」

「少しね。…あらやだ、じゃあ貴方の方が寒いじゃない。空調上げましょ」

そう言ってしのぶさんはベットまわりにあるボタンに身を乗り出した。
俺は慌ててしのぶさんの近くに寄り、手をつかんだ。

「空調、無いよ」

「え?そうなの?」

「うん、この手のホテルは空調無いんだ」

真っ赤な嘘だった。
本当は空調完備、室内を暖かくしようとすればできる。
だけど、しのぶさんはホテルきたことなさそうだし、二人で温め合えばいいじゃない…ってことで嘘をついたわけ。
しのぶさんは起き上がり、俺を見上げた。

「一緒にさ、寝てもいい?その方があったかいでしょ」

「いやよ」

そう言うと、案の定しのぶさんに拒否された。
やっぱりね…でも、こっちには最強のセリフがあるもんね。

「でも、しのぶさん」

「何よ」

「俺寒くて風邪引きそう。俺で寒いと感じるなら?しのぶさんの方が寒く感じるはずだし?隊長が風でも引いたら仕事に支障が出るんじゃないの?」

そう言えば、しのぶさんは苦笑いした。
ほらね、仕事に支障という言葉さえ使えば、しのぶさんは嫌でも飲み込まなきゃならなくなる。

「…そうね」

「じゃ、そういうことで…おじゃましまーす」

しのぶさんの背後から布団にもぐり、抱きしめた。思ったよりも小さくて柔らかい。

「わ、しのぶさんあったかあい」

「ちょっと!離してよ!」

いやだね。そう返事をすれば、観念したのかおとなしくなった。
真っ暗な部屋の中、目を閉じてしのぶさんのうなじに顔をスリ寄せれば、石鹸の香りと、しのぶさんの香りがした。

「ね、もう俺しのぶさんで頭がいっぱい」

そう囁けば、しのぶさんは変な声を出した。

「ふぇっ!?」

多分、へっ!?、って言おうとしたのがああなったと思う。
緊張してるんだよなあ…おすまししちゃってさ、そこがたまらない。
俺は顔をあげ、耳元に近づける。

「朝起きたときも、出勤したときも、出動したときも、車の中でも、今も…いつもいつもしのぶさんで頭がいーっぱい」

そう言いながらパジャマの中を弄り、お腹に触れ、左手でブラジャーに触れた。
しのぶさん寝るときブラしてるのかとか、苦しくないのかなとか思ったけど、せっかくのムードか台無しになるから言わないでおいた。

「わ、だ、だめよ!」

「え?」

「き、今日ダメな日なの…」

…あ、そうなの。だめなの。
あ。そりゃそうだよなあ。何で気づかなかったんだろ。しのぶさんお風呂じゃなくてシャワーだったもんね…
俺はパジャマの中から腕を引き抜き、上からうんと抱き締めた。
しのぶさんの肩に顔をうずめ、しのぶさんの香りを肺いっぱい吸い込んだ。

「…しのぶさんの香り好き。タバコ要らないかも」

「それは良かったわ…その、ごめんなさいね」

「何で謝るのよ、仕方ないさ」

「さ、寝ましょ。明日急いで帰らなきゃ…」

「そうだね…しのぶさん、大好き」

そこから、もう返事が無かった。
照れ隠しなのか、ただ返事をしたく無かったからなのかは分からない。
しのぶさんと淫らなこと出来なかったのは残念だけど、こうして寝れるだけでも大収穫。
とても嬉しかった。
何だがもったいなくて、一睡もできそうにないや。
好き。
すき。
しのぶさん、だいすき。





翌朝、やっぱり一睡できなくて慌ただしくホテルを出た。
イタリア製の車は、調子良く走り出す。

「しのぶさん、よく眠れた?」

「ええ」

クマできてるくせに。
その言葉を飲み込みながら、さらにアクセルを踏み込んだ。



fin
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