夜。パリの中でも一際賑わいを見せている建物がある。
豪華絢爛な装飾に、光り輝く銀食器。その上には今にも溢れんばかりの料理の数々。宝石のような色のワイン。
優雅な曲がこのオペラ座のオーケストラにより演奏される。
それらとはほんの少し離れたところに、大きく開けたホールには、男女で踊り、その煌びやかなドレスをふわりとなびかせている。目元には、仮面。ピエロの仮面や羽がついた仮面。実に様々な仮面をつけ、この舞踏会の参加者は立食や舞踏を楽しんでいた。
今夜はこのオペラ座、年に一度の舞踏会。
今年は劇団の人間も参加出来るとの事。
クリスティーヌもその一人で、ワイングラス片手に、壁に持たれていた。
着けている仮面は猫の仮面。
クラッシュピンクのスパンコールが散りばめられ、淵には薄ピンクの羽がついていた。

(もう起きたかしら。それとも、手紙に気づいていないのかしら)

クリスティーヌはため息をついた。
昼、クリスティーヌはエリックをこの舞踏会に誘うために地下に行ったが、当の本人が眠っていて、置き手紙をしてきたのだ。
そして、今の今までエリックからの音沙汰は無い。
メグは何しているんだろうかとクリスティーヌは考えた。
久しぶりの父親と踊っているのだろうか。
それとも、誰かに誘われて料理でも食べてるのかしら。

「お嬢さん、遅くなったようだな。これを食べるといい。お腹空いただろう」

ふと目の前に、目玉焼きとマカロニサラダが乗った食器が。
フォークにはソーセージが刺さっていて、口元に差し出されていた。
クリスティーヌはその主を見上げると金色の仮面をつけた男がいた。

「…エリック?」

「すまない。さっき手紙を見た」

その瞬間クリスティーヌの表情は一気に明るくなり、少しだけエリックに近づいた。
エリックは驚いたが、ソーセージを食べて誤魔化す。

「うふふ、良かった、手紙に気づいてくれて」

「嬉しかったよ。君からこんなお誘いがあるなんて」

エリックはあっという間に目玉焼きとマカロニサラダを食べた後、すぐ近くにあったテーブルから、白ワインを飲んだ。

「さて、一曲お相手してくれるか?」

クリスティーヌは、にこりと笑い、頷いた。

「勿論!」

エリックに手を引かれるがままホールへと向かう。
そして腰を抱かれ、曲に乗せて二人は踊る。
人に紛れて、仮面で隠れて、密かな密会。
クリスティーヌはエリックの目を見つめながら、内心とても喜んでいた。

(時計の針よ、今だけゆっくりに動いて)

心からそう思った。
エリックはクリスティーヌを見つめ、ぐっとその華奢な体を引き寄せた。
くるくると、他の人達にぶつからないように踊る。

「クリスティーヌ…」

エリックは踊りながら、そっとクリスティーヌに耳打ちをした。

「今夜、私のベットに来ないか…」

その瞬間、クリスティーヌの心臓は大きく波打ち、地面を踏んでいる感覚がなくなっていった。

「愛してるよ、クリスティーヌ…」

緊張しているクリスティーヌの表情に、エリックは内心笑いながらエスコートしていく。

(夜はまだまだこれからだ)

エリックはこの後の事を頭の片隅で考えながら、クリスティーヌとの舞踏会を楽しんだのだった。




fin
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