「…『親愛なるクリスティーヌ様、今夜の舞台拝見いたしました。貴女は日々歌唱力が上がり、着々とその道を歩いているようで嬉しいです。僕は仕事帰りの癒しとして、週に三日ほどこのオペラ座に通っています。まだボックス席に座れる余裕はないけれど、いずれボックス席や、手を伸ばせば君に触れられるような席に座って見せるよ。その時が来たら、君には沢山のファンが着き、君が来ている服も、舞台で一番華やかなものとなるだろう。恥ずかしくて、差出人は書けなかったし、劇団の人に頼み込んで、この手紙を君の部屋まで届けてもらった。それじゃ、おやすみなさい。いい夢を。』…」

クリスティーヌは読み終わり、エリックを見た。
エリックは少し微笑み、クリスティーヌを見ている。

「良かったな。ファンレターだ。おそらく、第一号」

「やったわ!」

クリスティーヌは嬉しさのあまりエリックに抱きつく。
テーブル越しなので少々苦しかったが、愛する女性がこんなにも喜んでいるのだから、エリックは全く気にならなかった。

「私にもファンが出来た!ファンが出来るような、そんな歌ができたんだわ!」

エリックは紅茶をおいて彼女の背中を抱きしめた。

「こいつの為にも頑張れ」

「ええ!」

エリックは複雑だった。
ようやく世間の奴にもクリスティーヌを分かる奴が出てきた。彼女の成功を願う身としては喜ばしい事だが、彼女の事も想う奴も出てくるだろう。いつか彼女が私の元を去る時が来るのだろうか。
エリックはようやく離れたクリスティーヌの額にくちづけし、再び紅茶を手に取った。
クリスティーヌは椅子に座り、にこにこしながらクッキーをまた一つ食べる。

「クリスティーヌ…」

飲もうとした紅茶を再び机に置き、エリックは立ち上がった。
クリスティーヌは紅茶を飲んだ後、エリックを見た。

「どうしたの?もう帰る?」

「そうだな、そうしようか」

エリックは思った。
答えは簡単だ。去ってしまうのか答えをださせればいい。
エリックはクリスティーヌの顎を掴み、その桃色の唇にくちづけをした。
クリスティーヌは驚き、目を見開く。
エリックはゆっくりと唇を離し、クリスティーヌに微笑んだ。

「愛してる…返事はいつでもいい。それじゃ、いい夢を」

そう言ってクリスティーヌの前から消えた。
尊敬している講師からの突然の告白に、クリスティーヌはまだ頭の中が混乱していた。
そして、理解できた時、顔がすごい勢いで火照るのを感じ、手で扇ぐ。

「何なの一体…」

ただ一つはっきりしていることは、そのくちづけが嫌では無かった事だ。
クリスティーヌはぼんやりと顔を仰ぎながら、いつ返事を言おうか悩んでいるのだった。





fin

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