「クリスティーヌ!準備は良い?」

バレエ教師の娘、メグ・ジリーが、クリスティーヌの部屋の前で声を張り上げる。
それを聞いたクリスティーヌは、慌ててネックレスをつける。

「ごめんなさい!ネックレスつけたらバッチリよ!」

真珠のネックレスをつけ終わり、荷物を持って慌てて扉を開ける。
淡い薄ピンクの総レースの落ち着いたドレスを見 身に纏い、やや濃い目の口紅を引いたメグがそこにいた。

「ごめんなさい、寝癖がなかなか直らなくて…」

「良いのよ!それより、早く行きましょ!久しぶりのお休みですもの!沢山お買い物してやるわ!」

クリスティーヌは、いつも明るいメグに心救われていた。
クリスティーヌも勢い良く頷き、ふたりで駆け出し、オペラ座を出た。

今、劇場は臨時休業中。
支配人のアンドレが舞台で蹴つまづき、舞台の老朽化も伴って、床に大きな穴を開けてしまったのだ。
それからと言うもの、舞台の床を総張り替え。
五日間ほど公演が中止となり、そのうちの一日だけ、外出を許された休みを貰えることになった。
休みが貰えると知ったメグとクリスティーヌは、パリにあるブティックに行こうと約束していたのだった。
勿論、すんなりと事が進んだわけではない。
クリスティーヌには、マダム・ジリーの他にもう一人講師がいる。
外出すると言う事で、そのもう一人の講師を説得するのにえらく時間がかかった。
心配だからと怒鳴られ、物が飛んでくるのをかわし、必死に説得した結果、今日の分の練習を前日に押し込む事で許可して貰えた。
無論、いつもより厳しく指導があったのは言うまでも無い。

メグとクリスティーヌは、まだ珍しかった電車に乗り、お目当てのブティックへと向かう。
久しぶりの外は、二人を刺激するには充分だった。
見たことのない店が次々と出来、デザートの甘い香りが漂っている。
お目当てのブティックに着き、軽い足取りで店に入る。

「仕入れのお兄さんから聞いたのよ。ここのアクセサリー、今一番人気ですって!」

メグは、クリスティーヌの手を引き、店の中を見回す。
クリスティーヌには何もかもが新鮮で、心踊るようだった。

「ここは、小物ね。服は何階かしら」

クリスティーヌは案内板を見ると、そこには四階とかかれていた。

「四階みたいだわ」

「じゃあ、順番に見てきましょ!」

階段を上がり、二階へ。
二階は家具だった。

「わあ…」

「この薔薇の刺繍が入った布団、綺麗ね…」

そこにはうっとりしてしまうような物ばかり。
豪華絢爛なベットから、クローゼット、机、絨毯。
そして、値段もそれ相応の値だった。
その値にクリスティーヌは驚き、少し目眩がした気がした。

三階。
ここは男性物の服、アクセサリー、鞄が揃う階だった。

「あ、これ支配人つけてたやつだわ!」

メグがガラスケースに入った金色の腕時計を指差して言う。
クリスティーヌも支配人がそれをつけていたのを思い出し、頷く。

「凄いわねぇ、男性物でも凄い種類」

ふと別のガラスケースに目をやると、そこには蝶ネクタイがあった。
食い入るように見つめていると、メグがニヤニヤしてクリスティーヌを見ている。

「な、なによ」

「プレゼント?」

クリスティーヌは否定しようとしたが、顔が熱く、赤くなっていることは明白だった。

「いやーん!やっぱりそうなのね!じゃあゆっくり選んでて!私上にいるから!」

「えっ!ちょ、メグ!」

慌ててるクリスティーヌを他所に、メグは軽い足取りで上の階に行ってしまった。






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