92、暗夜の焔


轟きが海から地面を這い、藍を照らしていた視界は烈火を吸収する。
瞳を震わせて前方を見つめるビビの隣で、アリエラもルフィもゾロも激しく動揺を見せていて、膝を抱えていたナミもあまりの光景に腰を浮かせて凝望する。
 
「そんな、もう追手が!?」
「うそ…っ、イガラムさん…!」
「ああ…ッ、」
 
たまらずに声を漏らしたルフィは、目を見開かせたままぎゅっと唇を結んで海に背を向けた。爆風に飛ばされてしまった麦わら帽子を手に取り、頭に乗せると激しい鼻息を地にこぼす。
 
「立派だった!!」
 
沈黙、動揺、狼狽を全て破ったルフィにハッとしてゾロも思考を切り替える。このままここで呆然としていたら、イガラムの命が、行動が全て無駄になってしまう。
 
「ナミ! ログは!?」
「あ、うん…貯まってる!」
 
ゾロの低く厳しい声にナミは慌てて腕輪を確認して、頷いた。
 
「ビビちゃん…大丈夫。絶対に大丈夫よ!」
「……、」
 
呆然と呼吸を止めて海の紅蓮を見つめるビビを抱きしめて、アリエラも震える身体に鞭を打って行動に移す。ゾロの元へと駆け寄り「早く船を!」と彼の背中を押すと、ゾロもアリエラを受け入れてずんずん引き返して歩いているルフィの背中を追う。
 
「ナミ! そいつを連れてこい! おれァ、アリエラと船を出す!」
「ええ、分かった!」
「ナミ、よろしくね! ごめんね、ビビちゃん!」
 
そう言い残すと、ゾロとアリエラは足を早めて反対側に停めてあるゴーイング・メリー号へと向かっていく。
 
「おい、ルフィ! 二人を起こしてこい。おれたちは船へ!」
「きっとまだ二人とも眠っているわ」
「うし! 任せろ!!」
 
ルフィはゾロ達と別れて、数時間前まで大盛り上がりだった酒場へと方向を変えた。
さっきまであんなに賑やかで、偽りだとはいえみんな笑顔で楽しそうだった。それがこんな一瞬にして闇に葬られてしまったなんて。悔しさにルフィは拳を握り締めながら、全力で地を蹴ってスピードをあげた。
 
「アリエラ、急げ!」
「ええ…! ハア…ッ、でもゾロ!」
「あァ!? どうした!」
「メリーちゃんはこっちよ!」
「……、」
 
全力疾走をして息を切らしているアリエラに、真っ向な指摘をされてゾロは少し頬を赤く染めてずんずんこちらにやってきた。その可愛さにアリエラもくすりと笑いながら、先ゆく彼の大きな背中を追っていく。意識することなくできたスムーズな会話に自分を褒めつつ…。
 
 
「ビビ! ビビ! 急いで!」
 
三人が行動を移して姿を消した後も、ビビは一歩も動かずに燃え続ける炎を見つめていた。
あの炎の中に、幼い頃から親のようにお世話を焼いてくれたイガラムがいるのだ。ここからでは、あまりにも遠すぎるし、近づけても彼を救出することは困難だ。
呆然とするビビの頭の中に、イガラムの優しい笑顔と交わした約束が蘇る。
 
 『たとえ周りのどんな犠牲を払おうとも…人を裏切ろうとも生き延びる…! つらいことです』

 
それは、イガラム自身も含めての約束だったのだ。ビビもそれはよく分かっている。だから、声を上げてしまいそうなのを何度も何度も押し込める。喉が震えて熱くなっても、グッとそれを喉の奥に押し込める。
 
「急いで! 私たちが見つかったら水の泡でしょ!?」
 
何度呼びかけても動かないビビの腕を強引に引っ張ると、彼女は力を失ったようにくらっと態勢を崩した。よろけたビビに視線を向けて、ナミはハッとする。艶々に輝いていた唇をひどく噛み締めて、ビビは怒りと悲しみを必死で耐えているのだ。その背景に何があるのかは分からない。ビビが一体どんなものを背負っているのかも分からない。
だけど、この子は強い──。ナミの中で一つ大きな確信が生まれて、震える身体をそっと抱きしめた。
 
「大丈夫! ちゃんとあんたを送り届ける! あいつらね、あんな風に見えるけど、イーストブルーを救ったのよ!」
「……ッ、」
「それもたった五人で…。バロックワークスが何よ、クロコダイルが何よ! 七武海なんて目じゃないわ」
 
ぎゅうっと彼女を強く抱きしめて励ますと、ビビは微かに震えて声なく涙を流したのだった。きっと、これが精一杯なのだ。全てはアラバスタのためにビビがバロックワークス社にふっかけた問題だから──。
 
 
 
その頃、ルフィは酒場にたどり着いていた。
勢いのままドアを体でぶち割って中に入ると、すやすや眠っているウソップの鼻とサンジの足首を掴んで、今度はコンクリートの壁をぶち割って外へと出ていく。その衝撃と身体が地を引きずる摩擦に二人は夢の世界から飛び起きて、この現状に驚愕する。
 
「いでででで!!」
「何だ痛ェ! おい、何だ!?」
 
ウソップとサンジの悲痛な声が刺々しい雰囲気の中でパチリと弾けたが、ルフィはお構いなしで二人を引き摺りながら走り続ける。行き先はもちろんメリー号だ。
 
「おいルフィ、何すんだ! 離せコラッ!」
「鼻がもげる〜〜〜ッ!」
「何事だァア!!」
 
今まで睡眠を貪っていたのだから、二人は当然何が起こったのかさっぱり把握していない。
イガラムの件で憤慨しているルフィは鼻息荒く、何も答えないでひたすら走り続けていく。
 
 
「急いで、ビビ!」
「ええ!」
 
涙を拭いたビビは、ナミに続いてメリー号へと走り出したがその足取りはどこか不安定だった。さっきからあたりをキョロキョロしているから、ナミが急かすように鋭く声を上げるとビビは少しスピードをあげる。だけど、やっぱり姿が見えないのだ。
 
「(カルーがいない…)」
 
港で落ち着いて話をし始めたあたりから、カルーはどこかへ消えてしまったのだ。まだそわそわしているビビにナミはハア…とため息をこぼして、彼女の不安にそっと耳を傾けた。
みんなが船に向かってきている頃、一足先にメリー号に着いていたゾロとアリエラはようやく出港準備を整え終えた。ゾロが帆を張り、アリエラが帆の調整を整え、みんなが上って来れるようにはしごロープをたらす。
 
「ビビちゃん、大丈夫かしら…」
 
しゅんと顔を落とすアリエラを横目で見下ろし、ゾロは腕を組み「どうだろうな」と答えた。その低音は優しく鼓膜を撫でる。爆風を受けた名残からか、肌を掠める風は生暖かい。そこで、ゾロもアリエラもようやく今二人きりなのだと認識し、二人とも手に汗をかいた。
数時間前に交わしたもの。もう、風が拭ってしまったほどに前のことに思えるが、たった数時間なのだ。ゾロもアリエラも、互いに気づかれぬように鼓動を鳴らして、聞こえてしまわないようにそっと数センチ距離をとった。
 
「……お、遅いわね」
「…そうだな」
 
普通にしようと思ったのに、“実質”二人っきりの静かな環境となるとそうはいかないようで。
ゾロもアリエラも、お互いを見てしまわないように目を逸らしながらやり場のない熱を弄ぶ。
 このまま無言になるのも、心拍数が聞こえてしまいそうな気がして。顔もどうしてか赤くなっていって。アリエラは、ぎゅうっと手のひらをにぎって会話を絞り出す。
 
「さ、さっきはごめんね。私、何か変なことをあなたに…?」
「あ? ああ……言ったな、変なこと」
「え…うそ、本当に!?」
「あァ。お前があそこまで煽るから、おれァ……」
 
彼女の熱に触れて、ゾロも軽やかに言葉をこぼしたがここでハッとする。
この大変な状況下でさっきのことを告げたらアリエラはきっとパニックになるだろう。もうすぐ追手が来ている中で、能力が鈍ってしまったら命はない。とりあえず、今は謝罪を保留にして、もう一つの件を脳裏の手前に持ってくる。
 
「…おれは?」
 
大きなシアンブルーがおずおずと躊躇いがちにこちらを見上げる。
そこにはとぷりとした熱が孕んで見えて、お前はそこにどんな気持ちを抱いてんだ…。と心で呟いてしまう。それは、“惚れた女が自分にも同じ気持ちを抱いてて欲しい”という願いからくる幻覚故にそう見えているのかもしれないが、それにしたって…ひどく“意識”を感じてしまう。
前までは、この女はおれに何の感情も抱いてねェ。そうきっぱり言えたのだが、果たして今はどうだろうか。腕を伸ばしてその熱を確かめたい衝動に駆られたが、必死に欲を閉じ込めて冷静さをかぶる。
 
「…もう、我慢はしねェ」
「え…?」
「本気でいくぞ。覚悟しろよ、アリエラ」
「……!」
 
鬼の気迫だ。まさに強敵を前にした時のような、あの敵を制する恐ろしい気迫。絶対に逃さないといった鋭い双眸に縛られては…アリエラは何にも言えずにただただ、高鳴る胸に期待を膨らませることしかできない。
彼は…これから本気で私を──。そう思うと一気に顔に熱が集まるのを感じて、そっぽを向こうとしたがゾロの大きな手に腕を掴まれてしまった。驚いて顔を上げると、ニヤリと口角をあげたゾロと視線が重なってまた鼓動がうねりをあげる。
 
「ぞ、ゾロ…、」
「逃さねェぞ、アリエラ」
「…ん、」
「もっと意識させてやろうか」
「え、ええ…ッ、」
 
腕を掴んだまま口角を上げるゾロに驚いてしまう。彼は引くタイプではないのは重々承知であったが、それにしたってこの変わりようは──。これが毎日続くってことなの? 心臓がもたないわ…私は寝ぼけて何を言ったのかしら…!
 数時間前の自分の行動を悔やむが、後の祭り。獲物を逃さない猛禽類の眼光に捕らえられ、身動きが取れなくなってしまう。このまま固まっていたら、彼はまた…キスをするのかしら?
そんな考えがどこからともなく自然に浮かんで、アリエラは慌てて思考を消した。
 
「お前はさっきから何でおれをそんな意識してんだ」
「だ、だって…」
「あ?」
「ゾロが…近いから、」
 
鼓動を鳴らせたまま、声を震わせたまま、瞳を潤わせたまま。最後まで続けようとしたが、それは破られてしまった。がやがやとした騒がしい音に甘い空気は割れてしまう。熱も甘美も心音も。全てが空気に溶けてゆく。ぱちんと弾かれ、恋から現実に戻ったアリエラとゾロは引かれるように喧騒に視線を投げた。
 
「おーい! 連れてきたぞ!」
「きゃ、ウソップとサンジくんボロボロだわ…!」
「タイミング悪ィな」
「あ…、」
 
がしがしと頭を掻くゾロのこぼしに釣られて顔を上げてみるが、バッチリ合った瞳の強さに恥ずかしくなってしまってふいっと逸らす。一体彼はどうしちゃったのかしら…私は何を口走っちゃったのかしら…。もう一度深く自分の行動を探ってみるが、全てお酒と交わした熱に潰されて何にも浮かばなかった。
それに、やっぱり今はそれどころではない。ゾロもアリエラも思考を切り替える。
 
「乗れ! いつでも出航できるぞ!」
「ウソップ! サンジくん! 大丈夫!?」
「あれ? こいつらまだ寝てるよ」
 
アリエラの声に促されて、引きずってきた二人に視線を落とすルフィにゾロもアリエラも呆れてしまう。寝ているのではなくて気絶しているのだ。それも、ルフィが乱暴に引きずってきたせいで。
それに気づかずに、全く、と呆れているものだから気を失っている二人に同情せずにはいられない。
 すると、明るい気配がまた二つ、路地の中からぽっと現れた。
 
「探してる暇はないわよ!」
「だけど、ここに置いていくわけには…」
 
こちらもまた困ったように両手を腰にかけたナミが、キョロキョロあたりを見回しているビビを咎めていた。少し到着に遅れたのも、ビビが探し物をしていたからだ。
ナミが急かすようにやっとここまで連れてきたのだが、ビビは不安げな顔をしたまま船の前で立ち尽くしてしまった。
 
「ナミ、ビビちゃん。どうしたの?」
「何かあったのか?」
「うん…カルガモがいないんだって」
「カルガモちゃん…?」
「口笛でくるはずなのに来ないのよ!」
「カルガモって…」
 
メリー号から顔を覗かせていたゾロとアリエラは、お互いに顔を見合わせて船尾甲板を指さした。
 
「こいつか?」
「クエーッ!」
「「そこか〜いッ!!」」
 
道理で何度も指笛を鳴らしても来ないわけだ。
主人を俯瞰して、よっと右羽を掲げている。カルーは酒場の近くの水飲み場でごくごく水分補給をしていたところ、ゾロとアリエラが通りかかったのだ。何やら騒がしい様子に賢いカルーは色々察知をして、二人の前をびゅんと走り抜け、誰よりも先にこの船に乗り上げて主人を待っていた──というわけだ。
「賢い子ね〜」とアリエラが可愛がってよしよしと頭を撫でている。その愛ガモの無事な姿にビビは一安心で、ナミに続いて海賊船に足を踏み入れた。
ルフィもウソップとサンジをこれまた乱暴に放りあげて、自分もジャンプして船に乗り込む。全員が揃ったところで、アリエラは垂らしていた梯子ロープを引き上げ、ゾロもいかりをあげて、新たに王女を乗せたゴーイングメリー号は波をかいて、緩やかにウイスキーピークから離れていく。
 
「川を上れば支流があるわ。少しでも早く航路に乗れる」
「よっしゃ、行くぞ〜ッ!」
 
目指すはアラバスタ王国。
様々な想いを抱えたビビの隣で、ルフィはご機嫌に元気な声を似つかぬ夜空へ響かせた。
まだ、どっぷりとした夜陰に包まれた世界。ビビの不安と焦燥もより鳴りを潜めていく。
大きな瞳は徐々に落ちていき、一点を見つめる。薄汚れた甲板に浮かぶのは、イガラムの笑顔、そして約束。あんなことがあったばかりだ。まだ“少女”のビビの心にまた新たな重たい鉛がくっついた。
 
「おい」
「え…、」
 
その時、とても低い声が鼓膜を揺らしてはっと顔をあげた。
声の元を辿って見ると、船尾甲板から降りてくるゾロの姿が。ああ…と思考を解いて、ビビは虚勢を取り繕った。
 
「Mr.ブシドー…」
「一体どれくらいの追手が来てやがんだ?」
「分からない…。バロックワークスの社員は全員で2000人くらいはいて、この町のような拠点が近くにいくつかあると聞いてるわ」
「まさか、本当に1000人も追手が来るの!?」
「でも、1000人……どんなお船で来るのかしら〜」
「何であんたはそんな呑気なのよ!」
 
ぽわ〜んと想像を浮かべて、クリークみたいなガレオン船だったらまたスケッチ取りたいなあ…とあれこれ膨らませている。アリエラはか弱そうな見た目に反して、能力者だということもあり自分の身を守る術は持っているし、ある程度は戦える。だけど戦闘慣れをしているかと問われれば、ノーだ。1000人の追手なんて恐怖に決まっているのに、何故こうもお気楽でいられるのか。ナミは信じられない…といった面持ちで首を振った。
 
「あれッ、!?!?」
「お、おい! 船が出てるぜ!?」
 
ふっと、明るい二つの声がメリー号を包み込む。
船尾甲板で気を失っていたサンジとウソップが目を覚ましたのだ。意識を飛ばす前に見た景色は、愉快な酒場。両手に花だと鼻の下を伸ばしていたボックス席に、自分の勇敢話に酔う男女。
柔らかな女の子の膝とソファで眠りについたはずなのに、何故今自分は船に戻っているのだ。それもゆらゆら揺れて波をかいているメリー号に。
起きた途端に絶句して、すっと立ち上がった二人にナミはやれやれとため息をこぼした。
 
「やっとお目覚めね」
「よく今まで眠っていられたわねぇ…」
「おい待ってくれよ! もう一泊くらい泊まってこーぜ!?」
「そうだぜ!!」
「楽しい町だし、女の子は可愛いしよ!」
「こんないい思い、今度はいつできるか分かんねェぞ!?」
「ゆったり行こうぜ! おれ達は海賊!」
「まだ朝にもなってねェしよ!」
 
起きた途端、この現状にぎゃあぎゃあ騒いで駄々をこねる二人にビビもあらゆる思考を飛ばし切って、驚いている。ナミもアリエラもゾロも、呑気な二人に長い息を吐いて呆れ目を投げた。
 
「何にも知らねェでよくもまあ…」
「よっぽど睡眠が深かったのね〜…でも、サンジくんきっと喜ぶわね。とっても可愛いビビちゃんが新しく船にいるから」
「え…?」
 
そういえば、双子岬で彼にハートを飛ばされたことを思い出す。変な人…と思ったけれど、なるほど。女の子が好きなのね。とビビは納得してまだ唸っている二人を見上げた。
けれど、その喧騒は二つの鈍い音が響くとともに、すぐに無へと返ってしまった。
 
「おい、あいつらに説明を…」
「うん、してきた」
「早ェな」
「面倒臭いとこ省いたから」
「まあ…うふふ、さすがナミ」
 
背伸びをして甲板から船尾甲板へと視線を大きく投げてみると、頭にたんこぶを作って伸びている二人が目に止まった。うんうん、さすがナミだわ。ナミにしかできない技だわ。とアリエラは笑みを描きながら頷いた。
 
再び静寂が訪れたメリー号。ちゃぷちゃぷと船のお腹で波を掻く音だけが、蒼く冷えた空気に融けていく。ビビの言っていた支流に着くと、ナミが指針通りに舵を切って、船は大海原へと走り出す。
 
「そろそろ島を抜けられるはずよ」
「すげェ〜! 霧が出てきた!」
「もうすぐ朝ね」
 
ご機嫌なルフィにつづき、ナミもほっと安堵する。夜の航海は危険極まりないのだ。一刻も早く闇が消えてくれないと安全は保証できない。ただでさえ、まだ慣れない偉大なる航路だ。一瞬のうちに船がひっくり返ることも恒常としてあるだろう。
 
刻が過ぎ、移ろいの早い空を見上げれば、星々が輝いていた藍色は徐々に薄氷を溶かしていき、その色を薔薇色に染めていく。澄んだ空気に霧はどんどん深くなり、視界を細めた。
だけど、緩やかに白く消えていく月に反して太陽が顔を覗かせてまばゆい陽光を照らすから、この濃霧も問題ではない。
 
「ああ、追手から逃げられてよかった」
「本当ね」
「船を岩場にぶつけないように気をつけなきゃね」
「任せときなさい! ──って…今のアリエラ?」
「え? ううん? 私はてっきりビビちゃんだと…」
 
耳に届いた言葉に軽やかに返事をしていたナミだったが、はたと疑問に抱いた。
アリエラにしては、少し低くて大人っぽすぎる。ビビにしても同じだ。間違いなく、今のは女性の声だ。男性の中でも低音を持つゾロには当然、出せないものだし…じゃあ、ルフィ?と視線を流すが、彼もキョトリとしている。
ゾロもその違和感に気がついて、船端に凭れていた身体を伸ばし、ナミたちと同じタイミングで声が聞こえた方向──ラウンジの前を見上げると、その欄干には見慣れない女性が腰を下ろしていた。 
 
 
 
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