音もなく病室のドアを開ける。
スライド式のドアはこういうとき楽だよね。


「また抜け出してたの?悪い子だね」

「げ、眞悧先生。こんにちわ」

「もうこんばんわだよ」


あたしの使ってるベッドに足を組んで座ってる先生はとてもかっこいい。

前に先生のお嫁さんにしてくださいって頼んだら素敵な笑顔で大人になったらね、と軽くかわされた。
全く、酷いなぁ。


「学校楽しかった?」

「うん、あたしのクラス頭いいくせに馬鹿ばっかりだからねすごく楽しいよ!ちょっと失礼かもしれないけど、でも大好き」

「そっか、よかったね」

「授業中にジュース飲んでたら怒られたけどね」

「それは君が悪いからだよ。っていうか僕ジュース類は控えめにねって言ったはずなんだけどなぁ」

「あはは聞こえなーい」


勢いよくベッドにダイブする。
病室のベッドは嫌いだけど疲れたあとには最適だ。
なんてったってこのふかふかさ、たまりません。

天井をぼーっとながめていたら頭を撫でられた。

手袋のせいで先生の手の温度は分からないけどきっと冷たいんだろうなぁと思った。


「先生に撫でられるの好きだよ、あたし。落ち着く」

「もう病室から出られないようにっておまじないしながら撫でてるんだよ」

「うわ、最悪!先生がやるとリアルだからやめて」

「でも君の制服姿好きだよ、似合うよねぇ」

「きゃー変態。じゃあ先生結婚してください」

「あ、そろそろお薬の時間だね」

「うそー」



先生が取り出したのは紅い紅い液の入った小瓶。それを見た瞬間あたしはびくりと体が揺れた。あの薬は恐い。あの薬は、嫌い。
すぐに眠くなるんだもん。


「…先生、」

「なに?」

「あたし知ってるよ。もうすぐ動けなくなること」

「…」

「おまじないなんかしなくてもあたし動けなくなるんだよ」


天井も床もベッドも先生の白衣も何もかもこの部屋にあるものは全部白い。

真っ黒なのはあたしの心だけ。


「大人になるまで生きれないの」

「疲れてるみたいだね」

「もういいよ。だからその薬は、」

「僕は許さないよ」


先生は手際よくあたしのうでに注射する。

ああ、またあたしは生かされたんだ。
どんどん先生無しじゃ生きられない体になっていく。



「死なせないよ。僕は寂しがりなんだ」

「…うさぎみたい」

「君もでしょ?」



もう眠くなってきた。
先生はきっとなんでも計算済みなんだろうな。


「今日はもう疲れただろう?ゆっくりおやすみ」


そこであたしの思考は停止した。



good night,my world
(あたしの世界はいつ終わる?)


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生戦さま、素敵な企画ありがとうございました!






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