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   そっと囁く





「名前」



宏さんの私を呼ぶ声が一番好き。低めで落ち着いたこの声は、いつも私を安心させてくれる。もっともっと呼んで欲しい。






しとしとと今日もまた雨が降る。昨日も雨。一昨日も雨。ときたま曇り。お天道様はこのところ見ていない。服は乾燥機でどうにかなるけど、布団はそうもいかない。いい加減干したい。おひさまの匂いがする、ふかふかの布団で眠りたい。テルテル坊主を作っても空は知らんぷり。



「…ちょっと晴れてくれたっていいじゃないの」



そうつぶやいても、空はうんともすんとも言わない。はぁと重い溜息をつき、重い体を起こして、会社へ行く支度をした。







*****






ざあざあと朝よりも強くなった雨にうんざりしながらも家路につく。雨で道路が混んでいて、車がなかなか前に進まず、だんだんイライラしてきてしまった。ふと見ると、無機質なデジタル時計は19:05の文字を映し出している。ああ、始まってしまった。録画予約は一応してあるけど、どうせならリアルタイムで見たかった。アウェー、その上平日となると、さすがの私も試合を見に行くことはできない。ならばせめてリアルタイムで、と思ったが無常にもその願いはあっけなく崩れさった。信号がまた赤になった。先頭が遅かったのか、車は三台分しか進んでいない。雨はまだ強く降っている。



「(…ほんといいこと無いな…)」






いつもは20分ほどで帰れるところを倍の40分かけてようやく家に着いた。ただいま、の声に帰ってくる音はざあざあという雨の音だけ。靴を脱ぎ捨て、リビングへ向かう。前半終了間際だ。スコアはまだドロー。ETUは苦戦しているのか、なかなか攻めきれていない。


「あっ…」


と思ったとき、ゴールネットが揺れた。入ってしまった。宏さんは悔しそうな顔をしているが、クロちゃんやスギ君を始めとするチームメイトを後ろから叱咤している。向こうも雨が降っているのか、ユニフォームや髪が体にへばりついていた。そして数分たち、スコアは相手リードで前半が終わった。ハーフタイムの間に軽くシャワーを浴びて部屋着に着替える。その上から宏さんには内緒で買ったレプリカユニフォームを着て、冷蔵庫からチューハイとつまみを持ってくる。完全なるおっさんスタイルなのは気にしない。
後半が始まった。前半は相手のペースだったが、後半はETUが攻め続けた。何度も何度もシュートをするが、なかなか決まらない。ぐっと手を握り締め、頑張れと心の中で祈る。そして後半26分。王子からのパスをなっちゃんが決めて同点になった。数分もしないうちに今度は王子が決めて、あっという間に逆転した。ひやり、とする場面もあったが、ETUは最終的に二点を守りきり、勝利した。クロちゃんたちとハイタッチしている宏さんを見ながら、メール画面を立ち上げる。



「えーと、おめでとう、と」


お祝いと労いの言葉をポチポチと打っていく。テレビではいつの間にか選手への取材に入っていた。宏さんが映った。



『緑川選手、試合おつかれさまでした!』

『ありがとうございます』


宏さんの久しぶりの声に嬉しさと寂しさを感じる。宏さんの試合の都合や、私の出張のおかげでまともに話したのは一週間ほど前の話になる。たかが一週間、されど一週間。


「(…そろそろ限界かも)」



ポチり、と送信ボタンを押し、テレビを消してキッチンへ向かう。雨音はまだ部屋を支配していた。






ピピピという典型的な目覚まし音で目を覚ます。外を見ると相変わらず雨がざあざあと降っていた。いい加減にしろよこのやろう、と心の中で悪態づきながら布団の中でもそもそと携帯をいじる。



「ただいまー」


その声にハッとして目が覚め、時計を見ると最初に起きてから二時間経っていた。二度寝しちゃったなー、と軽く思いながら玄関へと向かう。


「おかえりー」


と言いながらその大きな体に抱きつくと、宏さんも返してくれた。


「なんだ、起きたばかりなのか」


「んー、二度寝しちゃった」


「何やってるんだ」



ハハハと笑いながら言う宏さんに今日休みだしーと返しながら着替えに自分の部屋へ戻る。リビングへ行くと、宏さんはどうやらシャワーを浴びているようだったので、とりあえず軽めの朝食を作った。


「お、うまそうな匂いだな」


少しして宏さんがリビングへやって来た。二人で他愛もない話をしながら朝食をとる。


「今日オフでしょーどうする?どっか行く?」

「うーんそうだなぁ…」


ガチャガチャと皿を洗いながら今日の予定を聞いてみた。二人の休日が重なることはめったにない。行きたいところはたくさんある。でもこの天気じゃあね。


「でもこの天気だとあまり外出する気にもなれないしな…今日は家でゆっくり過ごそうか」



そう言いながら手伝うよと流しまでやって来た。でもあと少しだったので大丈夫だと言うと、じゃあリビングで待ってると言って戻っていった。少し手を早く動かして、食器を洗い乾燥機にかけ、リビングへ戻る。それに気づいた宏さんが大きく手を広げてくれた。座っている宏さんの前に、抱きしめられるように座る。ここが私の特等席。肩に頭を持たれかけながら目を瞑る。宏さんも私の肩に顔を埋めた。ああやっぱり落ち着くなあ。


「宏さん」


「なんだ?」


「呼んでみただけー」


「名前…」


「なぁに?」


「呼んでみただけだ」


そうしてお互い顔を見合わせ笑った。



「名前」


「今度はなぁに」


「愛してる」


耳元で囁かれた言葉に反応してか、顔に熱が集まってきた。ぎゅっと宏さんの服を握るとふっと柔らかな笑い声。名前、名前、と何度も私の名前を呼ぶ。さあさあと小雨になってきた雨音をバックミュージックに、声が部屋の中に静かに響いた。



「名前、愛してるよ」



こんなふうに役立つなら、たまには雨も悪くない。







私の方が愛してると答えると、返ってきたのは小さな笑いと唇にぬくもり。





++++++


ちかさんのリクエストでドリさんでした!
これはドリさんなのだろうか…←あの渋さが出せていない気がすごいします。
そして名前変換が少なすぎてすみませんorz
リクエストありがとうございました^^
少しでも気に入っていただけたら幸いです。
これからも朗月と変態玖由良←をよろしくお願いします。
*ちかさんのみお持ち帰り可


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