君にありったけの愛を叫びたい | ナノ



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この世界にきて四年半が過ぎた。身体もそこそこ鍛えられてきて、俺はいわゆるお忍びを覚えた。身体ができても実践で使えなきゃ意味がねえ。あの髭野郎が俺の剣術指南役に任命され、適当に習っているし、元々剣士だから戦えないわけじゃない。だが四十年以上慣れ親しんだ身体じゃねえわけだし、いざという時うまく立ち回れなかったら困るしな。
そんなわけでフィールドにちょこちょこと出て魔物と戦うことにした。そこそこ慣れちまえば一撃で倒せるくらいになってきて、どうにも物足りなくなってきた。髭野郎と本気でやりあってみたいところだが、残念ながらそれはできない。
所詮人の足。  と違って  があるわけじゃねえから行ける範囲が限られている。ルークの母親は誘拐されたことがトラウマなのか俺が家の外に出ることをひどく心配している。父親も心配していないわけじゃないが…それとは別の理由で俺を外へ出したくないようだ。理由はまだはっきりしないけどな。だが親が子を心配する気持ちはわからんでもない。そう思って我慢した。耐えた。半年だけ。




「…もう無理だ。我慢ならねえ」
「?どうしたルーク」
「いや、なんでもねえよガイ」


ガイと軽く手合わせした後に限界が来た。暴れ足りない。ガイも中々の使い手だが本気を出して戦えないし、フィールドのモンスターなんざもう素手でも倒せちまうし。こうなればもう直談判しかない。だが父親に言ったところで素気無くあしらわれるのは目に見えている。そう思って父親のいない夜、こっそり母親の部屋を尋ねた。




「母上、夜分遅くに申し訳ありません。ルークです」
「まあルークですか。どうぞお入りなさい」
「失礼致します」


そう言って入れば笑顔の母が快く出迎えてくれた。つくづく母性そのものを具現化したような人だと思う。そんな人を心配させてしまうことに罪悪感を感じ得ないが、それでも今の現状を打開するにはこれしかない。


「母上、お願いがございます。私の外出の許可を頂きたい」
「ルークそれは…」
「母上のご心配の気持ちも十分理解しております。その上でお願い申し上げる。私はファブレ家を継ぐものとして、また第三王位継承者として責任があります。ここにいれば命を脅かされることもなく、知識も十二分に得られますが、それだけでは民を導けない。自分の目で見て、感じ、行動しなければ。この地位にいる以上、私は学ぶ責任がある。そのために、私はここから出て多くのことを学びたいのです。どうかお願い致します」
「ルーク…」


外へ出て暴れたいこともあるが、学びたいという気持ちも嘘じゃない。核心のことについての情報が足りない。教団と預言のことは特にだ。それにいつまでかはわからんが、この地位にいる以上は責任も果たさなければならない。民の生活も知らんで民の生活をより良くできるわけがないことくらい何十年前から知ってるぜ。


「…あなたの決意は硬いのですね」
「はい」
「わかりました。わたくしから兄王様と旦那様にお願いしてみましょう」
「ありがとうございます母上!」
「でもこれだけは約束して下さいルーク。必ずここへ戻ってくること。無茶はしないこと。母を心配させないこと」
「(…どれかしら守れない気がしないでもないが)わかりました、母上。夜分遅くに失礼致しました。おやすみなさいませ」

そして母の部屋を後にした。





息子が去った後シュザンヌは彼の成長に喜びと寂しさを感じていた。マルクトに誘拐され、記憶を失った我が子が心身ともにここまで大きくなるとは。それにあそこまで自分の立場について考えているとは思っていなかった。まだ13歳で、誘拐されてから三年しか経っていないのに。せめて成人するまでは大事に大事に守らねば、と屋敷に閉じ込めてしまったことを恥じた。彼はもう、自分の道を歩み始めているのだ。子をの成長を喜ばない親などいるだろうか。それでも、


「心配だけはさせてちょうだいね…」


そして夜空に散らばる星々に願った。息子が健やかであるようにと。




*****
シュザンヌが呼び方が不明


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