君にありったけの愛を叫びたい | ナノ



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悪化したぜこんちくしょい


両親が旅行にいってしまったという話を聞いた時はどうしたもんかと思ったけれど、まあ別に一人でもどうにかなるだろ、という結論に至った
実家に帰った日はちゃんと休んだ。二日目。大丈夫だろうと思って始めた仕事がうっかりはかどってしまい、気付けば夜中の三時を廻っていた。急いで寝たものの、時すでに遅しで翌日起きて熱を測ると昨日よりも上がっている。その上頭も酷く痛い。重い体を引きずりながら、薬や冷えぴた、携帯などを手の届く範囲に置き、もう一度布団に潜り込む。うーん…あと一日で治るかな。そう思いながら目を閉じた






…なにか聞こえる。なんだろううるさいなあ。この音を止めなくちゃ。手当たりしだいに手を動かし、音源を探す。ああ、携帯か。そう思ってのろのろと体を起こし、再び携帯を探し、手に取る。花子だ



「…もしもーし」
「あんたねぇ!起きてるなら電話でないさいよ!心配したじゃないの!」


花子の大きな声に思わず受話器から耳を話した。ふと時計を見ると午後九時。寝始めたのが午前十一時。約半日寝ていたことになる


「ちょっと佳奈、聞いてんの!?」
「ごめん…寝てた。熱あがちゃって…」


そう言うと花子はぴたりと声を出すのをやめた。あ、いかん、嫌な予感がする


「あんた…まぁさか仕事やって悪化させてんじゃないでしょうねぇ…?」
「…あ、あはははは…」
「…笑ってごまかすなぁー!」


そしてその後十数分のお説教を受けた。…ごめん花子、そんでありがとう




「今熱どれくらいなの?」
「あ、今測る」


もそもそと体温計を取り、脇に当てる。相変わらず頭は痛いけど、寝る前ほどじゃない。ほどなくしてなった体温計を見ると、確かに低くはなっていた。それでも若干高い


「…まだちょっと熱ある。でも微熱くらいだから、ちょっとご飯食べて薬飲んで寝ればたぶん明日には治ってると思う」
「それならいいけど…佳奈、あんた自己管理なってなさすぎ。仕事頑張る姿勢はいいけど、身体を壊しちゃ元も子もないのよ」
「うん、自分でもそう思う。これからはもっと気をつけるし、休むときはちゃんと休むようにする」
「…わかればいいのよ、心配した」
「ありがと、花子」


その後少し話して電話を切った
本社に異動になって、これまで以上に頑張らなきゃいけないと思った。もらった評価を維持し続けなければいけないと思った。できない人間にみられたくなかった。そしてがむしゃらに仕事をした結果がこれだ。自分がすごく情けなくなった。これが新人ならまだましだけど、中堅レベルにもなって自己管理がなってないなんて…そう考えるとどこまでも落ち込めるけど、まずは身体を治さないと。初日に見つけたレトルトのおかゆを食べて、薬飲んで早く寝よう。明日には帰らなくちゃいけないんだから


おかゆを完食し、薬も飲み、お風呂に入り、また布団に潜り込む。そして布団の中で丸一日放っておいたケータイをチェックした。見れば花子から着信やメールがあわせて五十件ほど来ていた。ああこりゃ心配もするし、怒るよなあ…。そっと再び心の中でお礼と謝罪をつぶやきながら同僚から仕事の進み具合のメールなどもチェックする。十数分でチェックも一段落付き、さあ寝ようと思っている矢先に携帯が光った。メールだ。誰からだろうと見ると、吉田さんからだった。そういえばもう三日もあってないのか。遠征やらなにやらで出かけてて、一週間あわないこともざらにあったし今更寂しいとかない…ないはずなんだけどこのメールが妙に嬉しいのはなんでだろう
早くなった鼓動を抑えながらメールを読む



20XX/1128 22:38
Frm:吉田さん
Sub:

やぁ。もう寝てしまったかな?
二三日と書いてあって今日帰ってこなかったから
明日帰ってくるんだろうね
何時ごろ帰ってくるんだい?迎えに行くよ



その文を読みながら、頬が緩んでいくのが自分でもわかった。どうしよう、すごい嬉しい。何度も読み返してしまう。あ、返信!そう思って返信画面を出してはっとする。迎えか…。車を運転できるような身体じゃなかったから、電車で実家まで帰ってきた。もちろん帰りも電車だし、迎えは正直助かる。だけど風邪が治ってるかわからない。それに私は出張に行ってることになっている。吉田さんに嘘をついてるわけだ。心配させるから、なんてついた嘘だけど、結局は自己管理がなってなくて風邪を引いた私が悪い。心配かけたくなければ風邪を引かないようにすればよかったんだから。そう考えたら、今更ながら嘘をついていることへの罪悪感がじわじわでてきた。返信を書こうと出した画面はまだ真っ白だ
何度も書き直し、やっとのことで返信した



20XX/1128 23:17
To:吉田さん
Sub:Re

寝る前でした〜
明日には帰ります
でもお迎えは大丈夫です
お気持ちだけ頂いておきます
チェックアウトが早いのでもう寝ますね
おやすみなさい!



…ものすごくシンプルというか、可愛げのないメールになった。でもこれを可愛くしようというのも私には無理な話なので、そのまま送信して、目を瞑った



メール



寝息を立て始めて数分後、再び携帯が光ったことに、気づいたのは翌朝だった




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