君にありったけの愛を叫びたい | ナノ



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やっと帰ってきて安心しすぎたせいなのかわからないけど……


「…さんじゅー、はちど」


また熱でたとかほんと自分に腹立つ




ホテルで風邪を治し帰ってきた翌日。なんとなしに目がぱちりと開いた。時計を見ればまだ夜中の三時すぎ。なんでこんな中途半端な時間に起きてしまったんだろう。もう一度寝ようともそもそ寝返りをうとうとすると、身体が重い。あれ、と思って起き上がると汗をかいていることに気づく。心なしか、というより確実に熱い。まさかとは思いつつも重たい体を動かして体温計を取り熱を計る。そうして冒頭に至るわけだ。
取りあえずまだあまっていた冷却シート、要するに冷えピタをおでこと首に貼り付けそーっとキッチンへ向かった。そして極力音を立てずに氷枕を用意し(アイスノン無かった…)もう一度部屋に戻る。氷枕を枕と置き換え、かいた汗をざっとふき取りもう一度布団にもぐりこむ。もう仕事はしょうがないので有給をとろう。どうせたまってるし。そして怒られるだろうが柚布子に電話して看病してもらおう。(今日休みだったような気がする)この一日で本当の本当に完治してみせる。熱で思考が低下しているのに色々なことを考えたせいか、眠気がまた襲ってきた。あ、吉田さんにはなんて言おうか…それを思い出し、考えようとしたけど、意識は次第に薄くなっていき、いつの間にか眠っていた。


ピピピ、という無難な目覚ましの音で再び目が覚めた。寝たせいか、夜中のときよりは体が軽い、ような気がせんでもない。それでも動くのがめんどくさいほどだるく、起き上がるのも億劫だった。そのまま起きずにごろごろしていたら柚布子に看病をお願いすることを思い出し、枕もとの携帯でぽちぽちとメールを打つ。


「おーしっそーしん」


ぽちりと送信ボタンを押しまたごろごろするのを再開する、とすぐにメールが返ってきた。内容は予想通りのものだった。まず最初に馬鹿たれの一言。しかも文字がでかい。そのあとは看病に来てくれることといたわりの言葉が書かれていた。…なんか嬉しくて涙でそうだった。メールを眺めながらしみじみそんなことを思っているとコンコン、というノックが聞こえた。


「佳奈、寝ているのかい?」


やっべえ、今普通に吉田さんの存在を忘れていた。


返事が無いのを不思議に思ったのか「入るよ」という一言とがちゃりとドアが開く音が聞こえ、慌てて体を起こした。


「ジーノさんストップ!」


ありったけの声で叫ぶと見えた影がぴたりと止まる。


「佳奈…なんか声が嗄れていない?」

「あの…そのですね。お恥ずかしいことに風邪がぶり返し…じゃなかった風邪を引いてしまったみたいで…」


そこまで言うと「大丈夫なのかい!」と吉田さんは更に私の部屋に入ろうとしたのでまたもや慌てて彼を止めた。


「タイムタイム!風邪引いちゃったので!うつったら困るので!部屋に入らないでください!」


なんかもう慌てて言っていることが文章的におかしいような気がしたけど取りあえずこれだけは伝えたかった。


「ジーノさんに風邪がうつったら困るでしょう…あなたの職業は体がすべてなんですから…」


そう…彼の職業は体が売りなのだ。それに加えて彼はETUのエースだ。風邪を引いたからって休むなんて…いやまあできそうだけどね?基本的に自由人だし。それでも風邪になんて、ならないほうがいいに決まってる。「だから…!?」


治るまで私に近づかないで、そう言おうと思ったら彼は私のベットのすぐ近くまで来ていた。


「だ、ちょ、まっ」

「…僕の心配をしてくれるのは嬉しいよ。本当に嬉しい。…でも僕だって君が心配なんだよ」


切なそうな顔で私の手をそっと握る吉田さん…ここできゅんとくるのが女子なんだろう…が。ごめん。きゅんと来る前になんか色々とオーバーヒートしそうです。



熱くなる、


「佳奈…顔が赤いけど熱がそんなに高いのかい?」



…半分くらいはあなたのせいだと、言ったら彼はどんな顔をするだろうかなんて、考える余裕は、もうない。


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