君にありったけの愛を叫びたい | ナノ



   





赤と緑をよく見かける季節になった。息が白くなってゆき、店や街にはにはサンタやトナカイ、雪の結晶やベルのオーナメントが増えた。会社の同僚たちは家族や恋人のために、クリスマスに残業しないようにせっせと仕事に取り掛かっていた。おかげでこのフロアにいるのは私だけ。節電のために自分のところだけ電気をつけて、はたから見ればかなり怖い、若しくは寂しそうに見えるに違いない。でもしょうがないのだ。家に帰っても誰もいないし、家でひとりぼっちでご飯を食べるよりは、会社で仕事している方がましなような気がしたから。
カタカタカタとキーボードをたたく音が室内に響く。別に私にも恋人が居ないわけじゃない。三十路を過ぎてまだ恋人止まりなのかというツッコミは華麗にスルーさせていただくが。ただその恋人はどがつくほどのサッカー馬鹿で、クリスマスである今日も次に対戦するチームの分析するから暇じゃない、と昨日言われた。まああんまり期待はしていなかったけどね!痩せ我慢じゃない。もう十何年の付き合いなのだ。恋人になってからも、クリスマスを一緒に過ごしたことなんて一度もない。それがちょっと寂しいと思わないのかと言われれば嘘になるけど、それでもサッカーは彼の生きがいだから。私のワガママでどうこうしたくはない。
それでも。軽快に動いていた手がピタリと止まる。もんもんと考えていたら気持ちが重くなってしまった。

「っ〜!」

くしゃりと頭をかき、気分を一新させるためにぐーっっと後ろに伸びをした。そのときふと外を見るとふわりと、白いものが宙を舞っているのが見えた。窓の近くまで行きもう一度よく見れば雪だった。ホワイトクリスマスか。窓の下を覗いてみれば家族連れや恋人たち、友達同士。たくさんの人が見えた。そして自分の周りをぐるりと見渡す。真っ暗な部屋にポツリと光が一つ。分かってはいたけれど、なんだか寂しさが増した気がする。
はぁ、と深い溜息をひとつ付き、コーヒーでも入れようかと給湯室に足を向けたそのとき携帯が震えた。ディスプレイを見ればそこには「着信 達海猛」の文字。急いで電話に出ると「よぉ。元気に仕事してるー?」と特有の、のんきな声が聞こえてきた。


「ええ、ええ仕事してるわよ。今から一人寂しくコーヒー飲みに行くところ」
『さっびしいやつだなお前』
「誰のせいよ」
『え、俺のせい?』
「自覚無しってのが一番困るわね。まあ毎年のことだしたいして気にしてないわ。ところで用件は?大したことなかったら怒るわよ」
『おおこえーこえー。でも仕事、一段落ついたんだろ?』
「ああ、うん、まあね」
『じゃあこっち来いよ。出前頼んだらよー、オマケでケーキくれたんだ。一緒に食おうぜ』


一瞬耳を疑った。


「は?え、今なんて言った?」
『だーからー、一緒にケーキ食おうって言ってんじゃんか。お前車だしすぐ来れるだろ?』


こういう若干俺様なところがな…まあいいけどね。もう慣れたし。

「じゃー今から行くわ。うん、それじゃ」



そう言って電話を切り、急いで帰る支度をする。暗かった気分はどこかへ吹き飛んだ。二人出会うこともめったにないのだ。ものすごく嬉しい。実はこっそり買っておいたクリスマスプレゼントをカバンにいれ、足取り軽く会社を後にした。



「猛ー、来たわよー」
「おー、いらっしゃい」
「まー…相変わらず…」


殺風景な部屋だなー。まあそこいらじゅうに相手チームの情報が書いてある紙やら、DVDやらが散らばってはいるが。


「ほら、ここ座れって」


ポンポンと猛が自分の隣の場所を叩く。言われた通りに座ると、猛がいそいそとケーキを持ってきてくれた。…なんかすっごい違和感。それが顔に出ていたのか、「なんだよその顔。あ、このケーキ嫌なのか?」と言われた。


「いや…猛なんかいつもと違うなーって」
「そうか?あーまあ確かにちょっと楽しみだったよな」
「…なんで?」
「あっちのクリスマスってやっぱ本場だからかなー、日本より格段にすげえんだよな」
「本場って…いやまあ確かに日本よりは本格的でしょうけども…」
「でさーやっぱクリスマスは家族とか恋人と一緒に過ごすんだよな。んでさ、俺も過ごしたくなっちゃったんだよ、お前と」


そう言って私を見た猛の目がものすごく優しくて、いい年なのになんかきゅんと来た。なんだ私は。乙女じゃあるまいし。「そっ、か」と曖昧に笑いながら返事をしても、猛の目は変わらない。いつもと違う、真剣な目。反らせずに見つめ合うこと数秒。どちらからともなく、唇を寄せた。そっと当たる柔らかな感触と、さっきよりも近くに感じる猛の気配。あ、やばい。今、幸せの絶好調にいるわ、私。


Sweet Xmas!



「なんかさー」
「うん?」
「俺サッカーないと生きてけないけどさ」
「それ、十何年前から知ってる」
「お前もいないと生きていけねーわ」
「……!?」
「顔真っ赤ー」
「うっさいわ!不意打ちでそういうこと言わないで!嬉しいから!あ、」
「…そういうとこも好きだぜ俺」




+++++++++++

一位は我らの達海監督でした!
なんかラストしかイチャコラできてないですね…コメントくださった方すみません…
そしてありがとうございました!
Merry-X'mas!


……そして実は同着一位があと一人いるのですが…間に合いませんでしたorzすみませんorz
後日短編をアップしたいと思います


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