≪素直になりなよ≫
≪素直になりなよ≫
「あれ?来てたの」
今日は別の子とデートだから…そう伝えていたはずだけど。
「おかえり…なさい」
食事の用意までしてくれていたんだね。
悪いけど外で食べてきてしまったよ。
「ジーノ、膝の調子どう?」
「ん?ちょっと疲れているだけだからね。休めば平気だよ」
「そう、よかった」
手渡した上着をクローゼットに片そうとした彼女の体が一瞬ピクンと震えた。
あぁ、今日の子は少しきつめのフレグランスをつけていたから香りが残っていたのかも知れない。
「これ…掛けとくね」
笑顔が曇っている。
そんな顔して…言いたいことがあるなら言ったらどうなんだ?
なんだろう、今日はそんな彼女が鬱陶しくて堪らない。
「悪いんだけど、もうやめにしてもらえるかな」
「え…?」
「甲斐甲斐しいにも程があるって言うか、僕たち結婚している訳じゃないしね。お互いに自由でいいと思うんだ」
「私はいらないってこと?」
「女の子にこういうこと言うのは僕のポリシーに反するんだけど」
「そう…わかったわ」
この物分りが良すぎるところも癇に障る。
彼女は僕が綺麗な女性を車の助手席に乗せていてもデートで遅くなるよ…そう言ってもひとつも顔色を変えずただ「そう」とだけ口にする。
動揺する訳でもなく、文句を言う訳でもない。
別れを告げても「さよならジーノ」とそれだけ告げて去っていってしまった。
呆気なさすぎて笑ってしまうよ。
彼女と別れたからといって僕の生活には何の支障もない。
彼女がしてくれていた家事はハウスキーパーに頼めばいいことだ。
逆に言えばデートの後、律儀に家に帰らなくても良くなった訳だし、おそらく僕は今までにないくらい自由になったんだろう。
はっきり言って彼女より美しい女性はごまんと居るし何も不自由することのない毎日が送れている。
彼女一人にこだわる理由なんてひとつもない。
なのに、どうして僕は毎日家に帰り着いてしまうのだろう。
居るはずのない彼女の姿を求めてマンションのドアを開けているのだろう。
真っ暗な部屋には彼女の面影がひとつも残されていない。
まるで最初から居なかったかのように。
ぶると体が寒さを訴えた。
彼女を腕に抱き締めたいと思うこの感情はなんなのか教えてくれないか…
携帯を開きボタンを押す。
手にした携帯電話にはたくさんの女性からの着信履歴が残されていたが、彼女の名前で埋もれている送信履歴を目にして思わず笑ってしまう。
これじゃ僕は彼女にしか興味がなかったみたいじゃないか。
携帯から耳障りな機会音が何度も聞こえる。
『はい…』望んでやまなかった彼女の声は暗く沈んでいた。
「…ジーノ」
「僕をこんなに待たせるなんて君くらいだよ」
「なんなの?いきなり」
「ちょっと頼みたいことがあるんだ」
「…なに?」
「これから会いに行ってもいいかい?」
「どうして」
「どうしてなのか解らないから言ってるんだよ」
「意味がわからないわ」
「そうだね。僕もわからないよ」
彼女の住む部屋に辿り着くまでそう時間はかからなかった。
中に入れてくれない彼女との攻防が玄関先で続いている。
「ただ、君を抱き締めたくて仕方がなかった。どうしてなのか教えてくれないか?」
「そんなの私にわかるわけないでしょ。自分で考えてよ」
「抱き締めてみたらわかると思うんだ」
「いやよ」
「キスをしたらもっとよくわかるよきっと…」
「なによそれ」
「愛してる」
「ずるい、勝手すぎよ。まず謝って」
「ハハ、ごめんよ」
「…なんだか無性に腹が立つわ」
もう二度と離すものか、そう思いながら僕は彼女の温もりを腕に抱き締める。
柔らかくて温かくて、悔しいけれどほっとした。
「愛してる。僕から離れるなんて100年早いよ」
「何言ってるの?ジーノの癖に私を手放すなんて100万年早いのよ」
END
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ちかさんからいただいたジーノ。
うへへへ自慢!←
こういう設定が大好物ですみません←
こちらこそこれからもよろしくお願いしますー^^
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