君にありったけの愛を叫びたい | ナノ



   繋いだ手の暖かさ





私の彼はものすごいチキンだ。付き合って3ヶ月になるのに、キスどころか手を繋いだことだって無い。
そんな所も好きだけど、やっぱりここまで何もないと不安になってくる。だって女の子だし。





私はETUの広報をしている。大介とはそこで知り合った。告白は大介からで、その時の大介の様子は今でも覚えている。ものすごい噛むし、顔はほんとトマトみたいに真っ赤、目を右に左に忙しく動かしながら、「え、えっと…」と言ったきり、かれこれ10分ほど黙り込んだ。でも雰囲気から彼が告白するんだろうと分かっていたし、性格も理解していたから切り出すまで待った。
ただ季節は冬で、冷たい風がただ突っ立ているだけの私たちの肌に容赦なく突き刺さり、マフラーや手袋をつけていた私でも少し寒かった。だからそれさえもつけていない彼はとても寒々しく見えて、いや実際寒かったんだろう、微かに震えている肩を見た。仮にもスポーツ選手ならちゃんと暖かい格好してこなきゃ、なんて心の中で苦笑しながらマフラーを外して彼の首へかけた。
予想通り彼は驚いて、あたふたし始めた。

『だって好きな人には風邪なんてひいて欲しくないじゃない?』

そう言って笑いかけると、大介は顔を更に真っ赤にさせ、口をぱくぱくさせた。その姿を見てまた笑うと、大介も釣られて笑った。
そしてそっと手を取られ、まっすぐな瞳で言われた。


『佳奈さん好きです。俺と付き合って下さい!』


断る理由もなく、私と大介は付き合い始めた。
そのときに手を触られて以来、全く何もない。

デートのとき、さりげなく手をつなごうとすると、指先がほんの少し当たっただけで、「す、すみません!」と真っ赤な顔をして謝られ、腕を組もうとすれば、「うわぁ!」と振り放される。そしてまた謝られる。…なんだこの負のサイクルは。
このことを友人に相談すれば「よく続くね」と言われてしまった。有里ちゃんに相談すれば「そこまでガマンできる佳奈さんがすごいと思います」とまで。やっぱり他の人から見ても、おかしいのか。3ヶ月も触られないのは。

…私そんなに魅力ないのかな。

そう考えて自己嫌悪した。大事にしてくれているんだ、大介は。わかってる、わかってるけど…



「そんなに魅力ないのか私はー!」


誰もいなくなったグラウンドに叫ぶ。もう8時。残業している私以外は誰もいない。…いやまてよ?あ、しまった!監督いるじゃん、住んでるじゃん!うわ恥っずかしー!顔に手を当てて一人悶えていると、コンコンと控えめなノック音が聞こえた。まさか監督か…!?
どうぞ、と声をかけて出てきたのは大介だった。顔が少し赤いところを見ると、さっきの叫びを聞いていたようだ。微妙な時間が私たちの間に流れた。
声をかけようかかけまいか迷っていると、大介の方から静寂は破られた。


「あの、一緒に帰りませんか?」


そっと言われたその一言で、気まずさはどこかへ飛んでいった。「ちょ、支度してくるからちょっと待ってて!」といい、急いで帰り支度をした。二人で帰るなんて滅多にないものだから。

その帰り道、私たちはサッカーの話ばかりしながら帰路にいた。我ながらどうよと思いつつも、やっぱり一番盛り上がるのはこの話題だからなあ。


「やっぱり夜はちょっと冷えるね」

手を口に当て、はぁっと息を吹く。うーさむさむ。「あ、それでね、」続けた言葉は出なかった。大介がそっと私の手を握っていたから。なんでもないように見せてるけど、その横顔は赤かった。





幸せを感じる暖かさに、頬が緩んだ。



「大介ー」

「なんですか?」

「愛してるよ」

「っ…」


さらに真っ赤になった顔にキスをしたら、唇に返された。
そんなところが大好きです。





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企画サイト「こころ」様に提出!
椿があまり出てなくてホント申し訳ない…!


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