追慕 | ナノ






「…!……ゃん、…き…ちゃん、……きりちゃんっ!」
「……あ……?」
「っ目が覚めた!きりちゃんわかる!?」
「らん、たろ…?」


目が覚めると、見知った天井に、真っ赤に充血した目をした乱太郎がいた。…そうか、俺はもう学園の最高学年だっけ。段々と馴染む思考を整理しながら、身体を起こそうとして、激痛が走る。乱太郎が慌てて俺を寝かしつけた。


「だめだよ!ひどい怪我で、あと少し処置が遅かったら死んじゃうかもしれなかったんだよ!?一度意識が戻ったけど、すぐまた昏睡状態になって…!」
「…死……そっか……」


ああそうか、だから、さと姉は。俺はやっと理解して、唇をぎりっと強く噛み締めた。夢の中の夢こそが現実で、だからこそ何かがちょっとずつずれていたんだ。さと姉は何もかも、本当に何もかも分かっていたんだ。目頭が熱い。痛む腕を動かして目元を隠して、嗚咽をこらえて泣いた。もう優しくあやしてくれるあの美しい人は、この世のどこにもいない。村が戦にあった時に、さと姉も一緒に逝ってしまったのだから。


「き、きりちゃん、どうしたの、痛むのっ?」
「…っう、うぅ、いてぇよ、らんたろ、いたい、」
「どこ、きりちゃん、どこが痛いの!?」
「…は、っ…こころが、…」
「……きりちゃん……?」


こころが、いたいよ。
さと姉の最後の言葉が胸に突き刺さって抜けそうにない。あんな、吹けば飛んでいくような夢の出来事が人生で一番だなんて、死んじまってるくせに、どうしようもない嘘つきだ。本当は、俺に一緒にいてほしかったくせに。さと姉は、ばかやろうだ。叫び声を必死に殺しながら泣いていると、こめかみを伝う涙を、そっと細い指が掬っていった気がした。





春になる。卒業した後、村があった場所に行ったら、花の種を蒔こう。俺がいなくても、毎年勝手に手向けの花が咲くように。そうして生き抜いて、終わりが来たら、やっと成長した俺の姿で、あなたを迎えに行けるんだ。だからどうか戦に身を投じた俺を、叱って、それから、撫でてほしい。

それまではまだ、生きるよ。






追慕



111217




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