2
次の日から、仙道は毎日お弁当を持ってくるようになった。
毎回、デザートがついているそのお弁当に、越野は羨ましいと、一口くれ、と言うのだが、一度も貰えたことはない。
「なー、そのお隣さんって、」
「氷雨ちゃん?」
「そう、その子。お前のこと好きなの?」
ぴくり、仙道の頬が引きつった。
越野が瞬く。
毎日お弁当を作ってくれるなんて、惚れているとか、恋人だとか、そういう理由しか思いつかなかったのだ。
「氷雨ちゃんは俺のことお隣さんとしか思ってないよ。」
「へー、そうなの?」
「だって、恋人が出来たらその子にご飯作ってもらってねって、」
落ち込んだ様子で仙道が告げる。
越野は違和感を覚え、首を傾げた。
ぱく、と仙道がおかずを口に入れると、教室に一人の女の子が現れる。
違和感の正体はこれか、と越野は一人納得する。
「あきらー、お弁当作って来たんだけど…、」
「んー、いらないって言ったじゃん、」
「なんで?それお隣さんが作ったやつでしょ?私のやつの方が美味しいわよ!」
怒った様子の女の子に仙道ははぁ、とため息を吐いて、そのお弁当を並べて広げる。
努力の跡が見られるが、並べてしまうと魅力が無くなる、と言えばいいのだろうか。
仙道が、卵焼きを小さく切って口に入れた。
それを見て、女の子は期待した目をする。
「どう?美味しい?」
「んー、これって何入ってるの?」
「…え?何って、卵だけど、」
よくわからないと言った表情の女の子に仙道はむ、と顔を歪める。
そして、その子のお弁当についていた使っていない箸に隣人作のお弁当に入っていた卵焼きを差して、手渡す。
「食べてみて、」
ぱく、口に卵焼きを含んだ瞬間、目を見開いた。
それから、そのまま箸だけを持って教室から飛び出して行く。
越野は目の前で行われたそれに唖然としながら、平然とお弁当を食べている仙道を見た。
「ほら、越野、食べてもいいよ?」
そう言って差し出して来たのは置いて行かれた弁当。
はぁ、とため息を吐いて、そのお弁当の卵焼きに手を付ける。
別に、マズくはない。
だからと言って、とびきり美味しいとは思わないが、高校1年生としては平均的なできばえだろう。
ふと、弁当の蓋にのった卵焼きが差し出される。
サンキュ、とそれを口に入れる、小さいとかはこの際気にしない。
「うわ、別物。」
思わず、といったような越野の呟きに、だろ?と笑う仙道。
そりゃ、食えねーわな、他の弁当なんて。
苦笑する越野を不思議そうに見る仙道。
「そりゃ、恋人出来ても言わねーよな。」
「え?俺、恋人いないけど?」
空気が固まった。
え?お弁当作って来たあの子は恋人ではないのか?
なんて、越野は確実に思っていただろう。
「あの子、は?」
「え?知り合い。」
「…最低だな、お前。」
「俺が最低って、なんで?」
こいつ、ダメだ。
だらしないって言うのもあるけど、そうじゃなくて。
越野が深いため息を吐くが、仙道は気にしないのか、デザートまで食べ切る。
「さて、バスケしに行きますか。」
「あ、おい、待てよ、」
「そのお弁当箱返しといて」
「俺クラスとか知らねーんだけど、」
「ん。俺も知らない。」
首を振る仙道に越野はため息を吐いた。