旦那 | ナノ



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神奈川予選が終わって、一週間が経った。
今日は久しぶりの休みだ。
紳先輩に愛知に一緒に行くか、と誘われたが、流石に体力が持たないので申し訳ないが断った。
近くで目を輝かせていたノブくんにビデオカメラと軍資金を渡しておいたので、彼が代わりに行ってくれるだろう。
ちなみに、今日は宗くんと彰くんの二人も来ることはない。
と、いうより、私が単純に午後出かける予定があり、彰くんは練習、宗くんは帰省のため予定が合わない、というだけだが。

「んー…ゲームでもしてようかな」

ぼんやり、考え込んでいれば、電話がなる。
何だろうか、と受話器を取れば聞こえて来るのは、約束相手の声だった。
聞けば、もう暇になったからいつでもいいという内容で、今いる場所までわざわざ教えてくれる。

「つまり、お邪魔してもいいってこと?お友達といるんでしょ?」

バレた?と明るく笑う声に、もちろん、と答えて。
じゃあ今から向かうね、とだけ伝えて、用意を始める。
普段は日焼け止めとリップをつけるくらいで、化粧なんてしない。
けど、今日はコンセプト的にも別の方がいいだろう。
大人ぽく見えるように丁寧に化粧して、髪を編み込んで残りは下ろしておく。
ひざ下のワンピースに上着を羽織って、大人っぽいカバンを持つ。
少しだけヒールのあるサンダルを履いて、そのまま部屋から出る。
話に聞いた、今まで入ったことのないその騒がしくてタバコの匂いがする店舗に入った。
見回せば、少し行ったところでワイワイと話をしているようだ。
静かに近寄って、軽く肩を叩いた。
顔を近づけて、彼の耳元告げる。

「よーうへーいくん?」
「っづあ?!」
「ふっ…面白すぎるでしょ、洋平くん」

顔を逸らして口元を隠して笑っていれば、呆れたような、というか、仕方ないなぁという表情をした洋平くん。
目を細めて笑うその顔は、何というか、とても、優しくて。
見惚れて、目を見開いた。
場所が場所だから、あまり絵にはならないけれど。

「氷雨さん、来てくれたんだ?初めてでしょ?」

口の動きで話す内容を読む。
うん、と頷いて、首を傾げてゆっくりと口を動かす。

「わたし、どうすればいい?」
「あー…とりあえず、逃げるか」
「えっ?!」

立ち上がった洋平くんが私の手を取って、そのまま出口へ向かう。
引かれる瞬間に見えた、彼の友人たちが驚いたようにこちらを見ていた。
パチリ、瞬いてひらりと手を振っておく。
そのまま洋平くんとパチンコ店から外に出る。

「わー、耳がジンジンする」
「ごめんね、氷雨さん。こんなところに呼んで」
「んーん、面白かったよ」

へらっと笑って、その顔を見つめて首を傾げる。

「今日は、この前までのお礼のつもりなんだけど、どこか行きたいこととかある?」

このままパチンコしたいなら、それでもいいよ?
そう笑えば、驚いたように瞬きをした洋平くんは私をまじまじと見つめる。

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