旦那 | ナノ


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「仕事って違うの?」
「違うというよりは分担してる、ってのが正しいぞ」

橘くんの後ろから相沢さんが顔を出して笑う。
その顔は柔らかく笑っていて、どこかホッとする。

「推薦マネの方がバスケ知識とか、指導とか、そういうの向いてますもんね」
「お前みたいなチートはいないけどな」
「チート…、でも身長とか体格はやっぱり同性じゃないと足りない部分がありますから」

あっさり言い切られた言葉に苦笑する。
ハンデをつけてもらって、時々勝てるかな程度になってしまうのだが、これでもチートでいいのだろうか?
なんて、ふわりと考えてから、でも他人の動きをトレスしたり、リズムで分類できるのは確かにチートだな、と考え直した。

「それで、今回は武里対湘北から中央席で見てればいいの?」
「ああ、いつも通りのスコアを頼む」
「あ、そこにはいつも通りでいいんだ?わかった」
「俺が普通のスコア書いとくからな」

橘くんの言葉に宗くんがもう一度首をかしげる。
その疑問に答えようかとも思ったのだが、もうそろそろ移動しないとまずそうだ。
筆記用具とスコア表を持って中央席へと向かう。
過去に走って人にぶつかった経験があるので、早歩き程度で中央席まで行くと、記者の相田さんとその後輩さんがいた。
ぺこり、と小さく頭を下げて、筆記用具を準備して、スコア表をめくる。
軽く足を組んで、その上にスコアを置くことで少しでも書きやすい位置にまで紙面をあげ、ポケットから眼鏡を取り出した。
もうすぐ、試合が始まる。


試合は、桜木くんが何故か来ていないが、それは関係ないのだろうか、湘北優位で進んで行く。
湘北の力は完全に武里を抜いたようだ。
そのままどんでん返しもなく試合は進み、ラスト5分でやっと桜木くんが会場に現れる、なんてこともあったけれど、それ以上も以下もない。
順当な結果とも言えるだろう。
ゴールポストの後ろにみんなが並ぶのを横目で見ながら、それでも、試合を追う。
来年を考えながら、次の武里戦のために更に詳しい情報を集めていく。
ボールの流れ、攻め方の特徴、去年とほぼ変わらないデータに、やはり安定しているのだとしみじみ実感する。
審判のホイッスルと試合終了の声を聞いてから、スコアを持って、席を立った。
今日の私は推薦マネの仕事をする日なのだ。
彼らのアップの手伝いも、推薦マネの重要な手伝いの一つなのだから。

「あ…れ?」

ふ、と陵南に目をやって、一人の選手に気がついた。
練習を始めた部員たちに、ちょっとごめん!と叫んで、中央を突っ切る。
橘くんに手を振って、同時に必死に頭を回転させた。

「白雲?どうした?」
「あの、陵南の、選手!!!多分、13番!」
「は?…嘘だろまじかよ?!やめたんじゃねーのか!!」

おいおい、冗談じゃない、と二人して、応援席に視線を向ける。
相沢さんが気がついてくれて、どうした?と軽く体を乗り出して問いかけてくれた。

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