旦那 | ナノ



088
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目を細めて優しく笑う紳先輩に、そうですね、と頷いて、笑顔で、お願いします、と続けた。
そして、体育館に到着して、サイドから全体を撮れる位置に席を取る。
三脚を組み立てて、カメラを設置、全体がちゃんと映るか確認しておく。
ズームしてみたり、少し動かしてみて、異常がないことを確かめてから、椅子に座る。

「…とはいえ、なんで橘くんはビデオ取ってくるように言ったんだろう?」

一応、“原作”という部分ではこの試合を撮ることに意味はあるだろう。
だが、此処は紙面の世界ではない。
湘北が勝ち進むとは限らない世界だ。
それに、そもそも、その知識は私しか持っていない筈で、私も勝敗云々も日数も大抵のことは覚えていない。
名前だけの登場校がどれだけあったと思っている。
基本しか覚えていないし、あの話は湘北が中心になっているのだ。
ふむ…と首を傾げながら考える。
まあ、橘くんも橘くんで、ちょくちょく色々見て回っているらしいし、何か感じるものがあったのだろう。
湘北か三浦台かのどちらかに。

「どうかしたのか?」
「橘くんが、なんでこの試合ビデオ撮ってくるように言ったのか、気になりまして」
「練習試合とは言え、陵南相手に一点差だったからじゃないのか?」
「ああ!確かに!」

そうか、そう言うことか。
納得する理由を提示されて、コートに視線を落とす。
と、何やら、上の方を指差している人たちがいる。
その指先を辿ると、そこには陵南がいた。
ぱちり、思わず瞬いて、紳先輩のブレザーの裾を引く。

「陵南来ましたけど、どうします?」
「今はいい、終わりにでも挨拶すればそれでいいだろ」

そろそろ、試合も始まるしな。
こくりと頷いて、コートに選手が整列し始めた段階で、録画を開始する。
ええと、スタメンは、とパンフレットを見ながら、確認。
眼鏡をかけて、スコア表も開き、ボールペンで書き始める。

「氷雨、」
「何です?」

声をかけられて、紳先輩を見た。
少し驚いたような顔をした彼に首を傾げるが、ゴールが決まったらしく、慌ててコートに視線を向け直す。
隣で紳先輩が笑いながら、ちょっと出てくる、と階段を上がっていった。
はぁい、と返事をして、ええと、三浦台の4番だったな、とスコア表に書き込む。
そのうちに湘北のメンバーチェンジがあり、一気に流れが変わった。
湘北10番、桜木花道。
ファウルの多い彼だが、彼の動きをマネしろと言われても、私にはできそうも無い。
ぼーっと見ながら、リズムを取ってみるが、不規則すぎて役に立たない。
基礎能力が高いんだろうとは思うが、些か高すぎる気がしないでも…いや、なんでもない。

「氷雨?どうした?」

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