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「…氷雨!」
「っ?!…ああ、カノンさん」
「ああ、カノンさん、じゃない。全く、お前は」
呆れられたようにため息を吐かれた。
ちら、と時計を見れば、まあ、うん。
「ありがとうございます」
「次からは気をつけろよ?」
「…善処します」
にこり、笑って、お弁当を広げる。
じゃぁ、俺は仕事に戻る、と苦笑して、カノンさんは自分の席に戻った。
一息ついて、ちら、とカミュさんとミロさんを見れば、私のことなど気にしていないかのように話し込んでいる。
…まあ、いいか。
むしろ声かけるのが不安でしかなかったりする…うん、やめておこう。
「いただきます」
手を合わせてから、箸を持つ。
目の前に影ができて、見上げれば、そこにいたのは、3人組で。
「氷雨、一緒に食べても?」
「勿論ですよ」
「じゃあ、お昼を持ってくるから。ほら、デス、行くよ」
「はいはい、人使いの荒いこって」
肩をすくめたデスはディーテについて、多分、双魚宮に向かった。
必然的に残るのは、シュラと私で。
まあ、あの二人が何かを考えて、私たちを残したのだろうな、とは思うものの…。
なんて、考えていれば、シュラが躊躇いがちに声をかけてくる。
「氷雨…ありがとう」
躊躇っていたわりに、はっきりした声色で、彼は告げた。
一瞬なんと答えるべきか悩んだものの、事実、私は何もしていないな、と小さく微笑んだ。
動いたのは、彼らであって、私は、少し手伝っただけだ。
「何のことですか?」
「…デスマスクに、お前は背負い過ぎだと怒られた」
叱られて不貞腐れたような顔に思わず笑う。
でも、その顔は少し前の彼より、明るく、素敵だった。
「良かったですね」
「…ああ」
静かに彼が頷いたときに、二人が帰ってくる。
それから、私たちは執務室で遅めの昼食をとった。