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私の話題転換に乗ってくれる心優しい聖闘士は、照れたようにはにかんだ。
素直に表情に色々表せる上それに不快感がない彼は非常に稀な人間では?
本当に聖域は成人男性の純粋培養でもしているのだろうか。
聖闘士(成人女性)の知り合いがいないので、そちらについてはどうかわからないけれど。
「アルはモテそうですね」
「は…?」
理解できない、という顔だ。
百面相かと思うほど、私が今日ここにきてからの彼の表情はコロコロ変わっている。
いやでも実際、私が黄金聖闘士の中で誰と結婚する?って言われたらアルだと思う。
他が悪いわけじゃ…いや他もなんとも言えない部分があるけれど、なんだろうか、他のメンバーに比べて幸せにしてくれそうレベルが高い。
「モテるのはそれこそアフロディーテのような男だろう」
少しばかり諦めたような口調で。
いやそれはどうだろう?
「ディーテは確かに美人ですけど、あれは観賞用として判断される可能性の方が高い気がしますが…」
「観賞用?」
「美しいものって目の保養になるでしょう?でも、恋人とか結婚とかって、目の保養じゃないと思うんですよね」
というかディーテレベルだと隣で奥さんやるの無理って断られそうな気もする、とディーテに怒られそうなことを考えつつ。
もちろん、好みの顔である方が夫婦生活うまくいくって方もいらっしゃいますけども、と返す。
同時に、アルはそういうことを考えたことないのだろうか、と首を傾げる。
そして気が付いた、考えるわけないよね、だって彼らって聖闘士だもの。
聖闘士なんて女神のために命を差し出す兵士であり戦士だ。
そりゃあ恋愛も結婚も、現を抜かすとか言われそうだし、もっとも遠い位置にありそうだ。
「これは世間一般というよりも、私の持論に近いんですけど、アルは心根が美しいと思うんですよ」
「お、おう」
「いや、これは別にディーテとかがそうじゃないというんじゃなくて、」
「それはわかっているが、美しいとは俺に似合わない形容詞だな」
「そうですかね?」
美しいには清らか、という意味も確かあったはずで、そう考えると、アルは十分に美しいの範疇なのでは?と思うのですけれど。
「なんだか、氷雨にはほめられてばかりだな」
慣れない、と目元から耳まで赤くして照れている彼にアルは褒めるところが多いから仕方ないですね、と返す。
より一層顔を赤くした彼は泣き出しそうにも見える。
少々からかいが混じりすぎたか。
「氷雨、何してるんだい?」
「ディーテ?用事は終わったの?」
「うん。もともとそんなに大変な用事でもなかったからね。さ、帰ろうか」
「はーい。アル、ごちそうさまでした」
コーヒーを飲み切ってからコップを机に置いて立ち上がる。
ディーテがすっと私を抱き上げる。
近い位置でその顔を見上げて、うん、と一人納得する。
「やっぱりディーテは結婚断られそうな顔してる」
「突然喧嘩を売るのは今の流行りなのかな、ムウにもこの間喧嘩を売ったって聞いてるよ」