正義 | ナノ


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一輝の名前を違和感なく呼んだその声は甘い。
だが、目を細めただけの顔は、笑みとは到底言えないだろう凶悪さすら感じさせる。
その言葉に少しばかり納得もした。
小さく最近は眠らせるというよりも、眠りに来ていた感じだったけど、と呟いているのも聞こえる。
たしかに一度慣れてしまえば、逃れられないようにズルズルと引き摺り込まれてしまいそうだ。

「マスクにはベッドがないから、特別にわたしの膝を貸そう」

悪戯に笑うその顔に逆らう気も起きず。
ある意味では氷雨なりの感謝の印なのだということにも気がついていたからこそ。

「…ありがとよ」
「何、日頃のお返しだ」

足を肘掛にあげて横になれば、枕になる筋肉の少ない腿は柔らかかった。
戦いとは無縁なのだと知っていたのに、実感する。
二人を眠りへと誘った手が、俺の顔には近寄ってこないのを見て、ニヤリ、と笑う。
態とらしく顔を見つめていれば、困ったような表情。

「そんなに見るな」

子供に注意するような口調で、少しだけ暖かいその掌が目の上に乗せられる。
侵食するような体温を感じながら、目を伏せた。
と、空いている片手が頭を何度か往復する。
深呼吸を繰り返しているうちにゆるゆると眠りに誘われた。

静寂が破られる。
空気が変わるのを感じた。
感じた?いや、感じる前に予知した。
目を開いて、体を起こす。
ぱさり、と落ちたブランケットを目で追うが、どうやら2人も起き上がったようだ。

「入ってもいいかな?」

言いながら入ってきたのはアイオロスだ。
瞬間、氷雨の小宇宙がいつものものへと戻る。

「どうされましたか?アイオロスさん」

首を傾げて問いかける手の中には仕事だろう書類。

「そろそろ、シエスタは終わりにしたらどうかと思ってね?」
「そうですね、当初の目標は達成したので構いません」

にこりと笑みを浮かべて、俺たち3人を順番に見る。
最後にアフロへと声をかけた。

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