正義 | ナノ


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仮眠室からの小宇宙が変わった。
がたり、と椅子を鳴らして立ち上がったのはアイオロス。
シュラの肩が大きく揺れたのを見た、が、仮眠室の扉が開けばアイツの方へと全員の意識が向かうのがわかる。
開いた扉から覗いた顔は、俺たち3人を捉えていた。
ふわり、と今までとは少し違うその笑顔。
瞬間、濃すぎるほどに室内を染めかえる小宇宙。
もし、小宇宙に色があるのならアイツを中心に執務室が一気に色づいただろうし、匂いがあるのなら眩暈がするほどの安らぐ香りに包まれただろう。
声をかけようとしていたアイオロスが黙り込まざるを得なくなる。
小さな白い手が持ち上げられて、ひらりひらりと蝶のようにアフロを招く。

「おいで、ロディー」

操られるように立ち上がったアフロはおぼつかない足取りで素直に仮眠室へと向かった。
氷雨は視線を俺とシュラに向けて、唇に凄絶な程の妖艶な笑みを。

「マスクと、しゅらも」

少し舌ったらずに呼ばれたシュラは当然のように和らいだ表情でアイツの元へ向かった。
かくいう俺も、炎に身を投じる虫のごとく、招かれるまま足を進める。
部屋に入ると、アフロはすでにベッドに座っていて、シュラももう一つのベッドに座るよう促されていた。

「マスクはこっち」

ソファーに座るようにという指示に素直に従う。
飲み物を出された俺とシュラと違い、アフロは静かに横になっていて、近くに氷雨が腰かけていた。

「氷雨…?」
「ロディー、疲れた時はちゃんと寝なきゃダメだね?」

水色の髪を何度か優しく撫でて、遊ぶように軽く髪の一筋を引っ張る。

「大丈夫だよ。ここにいるから」

頬を撫でた手でそのままアフロの目の上に手のひらを置いた。
しばらくすれば、久しく聞いていないアフロの寝息が響く。
…は?
理解できない状況にベールでもかかっていたかのようにぼんやりしていた頭が覚醒する。
いや、少し違う。
いつでも戦えるように尖らせている神経が包み込まれるような感覚だ。
久しぶりの感覚、いや、そういうものだと理解してからは初めてとも言える感覚に戸惑う。
俺の戸惑いを放置して、氷雨はシュラをも同様に寝かしつけた。

「嘘だろ」
「嘘じゃない。一輝さえ目の前で眠らせられるわたしを甘く見ないほうがいい」

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