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ちょうど見かけたアルに声をかけて見たら、下まで降りるというので、連れて言ってもらうことにした。
それにしても、冥界の使者?というのはとても軟派なようだ。
“わたし”の知識がない状態だからこそ、そう思ったのだろうか?
まあ、結局のところは関わらないだろうし、どうでもいいのだが。
彼もきっと珍しい相手だったから声をかけてみた程度に違いない。
「白羊宮まで行くなんて、何かあったのか?」
ふ、と少しだけ心配そうに私に声をかけるアルに首を左右に振る。
優しいな、と思いながら、横抱きされている自分のお腹の上に乗せてある紙袋を示した。
「貴鬼君にお礼渡そうと思って」
「貴鬼…?」
「はい。貴鬼君が毎朝私に新聞を運んでくれるんです」
そうしないと世間からすっかり切り離されてしまうもので。
苦笑して答えると、アルはなるほどな、としみじみと頷いていた。
そんなことを言っている間も、光速で走っているせいか、目的地まではすぐにつく。
扉を開いて迎え入れてくれたムウさんはいつも通りの笑顔でにこりと笑い手を振った。
私が下ろされない様子を見ると、多分アルも用事があるのだろう。
…とはいえ、ここまできたら降ろしてもらっても問題ないんだけど。
白羊宮の生活区域に案内されて、待っていた貴鬼君に紙袋の中からクッキーを取り出した。
サクサクで、自分でもなかなか上手にできた自信作だ。
それ以外は全部いつもの三人のお腹に消えている。
「わあ!これもらっていいの?」
「うん、いつもありがとうね」
「へへっ、おいらこれからもちゃんと運ぶよ」
本当に嬉しそうに笑ってくれるその顔に、こちらも嬉しくなって口元が綻ぶ。
ついでに、と運んでくれたアルにもありがとうと、同じだが少し小さな包みを渡した。
それから、残った紙袋の方はムウさんに差し出す。
「ムウさんも、いつもありがとうございます」
「いえ、私は何もしていませんよ。…こちらこそ、ありがとうございます」