正義 | ナノ


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「俺に気がつくか、見たかったんだ」
「…カノンさんに?」
「アイオロスが、俺に負い目を感じているのは知っているか?」

…え、なにそれ。
今まで私がみたカノンさんとアイオロスさんは、私が貧血で倒れた時くらいで。
あの時感じたのは、サガさんとアイオロスさんの二人と、シュラが非常に微妙な関係であることくらいで。
やはり、思い当たる節はない、と首を左右に振った。

「なら、俺が昔サガの代わりになるために幽閉されていたことは?」
「…それなら」
「その当時から、いざという時に違和感をなくすため、サガと俺は入れ替わっていた」

だから、今も完璧にサガの小宇宙を真似することができるんだ。
苦笑気味に告げられた言葉に、なるほど、と頷いて続きを促す。
聖域は業が深いな、と思いながら、カノンさんを見つめる。

「小さな頃のアイオロスは、俺とサガを見分けられたんだが、ある時から、全く見分けられなくなった」
「ある時から…?」
「ああ、小宇宙による他人の見分け方を知る頃だ」

悲しげな微笑を浮かべる二人に眉を寄せた。
その顔は違うはずなのにそっくりで、同じ痛みを感じているようだ。
カノンさんがサガさんだと思われるのは、確かに必要なことだったのだろう。
だが、そうなることで、聖域からカノンさんの存在は消える。
見分けられたアイオロスさんまでも、カノンさんをサガさんだと思えば、それはきっと、幼い少年にとっては絶望を形にしたようだろう。
聖闘士はいつか、自分の五感よりも小宇宙を信じ、頼りにするのだと、サガさんはいう。
実際そうすることで勝っているのも事実なのだろう。
サガさんは言葉を続けた。

「だから、小宇宙を知らなくて、もう一人の私も受け入れてくれた氷雨なら」

そこで言葉が切られる。
私はちらり、とカノンさんに視線を向けて問いかけるような言葉遣いで確認する。

「それで入れ替わってみたんですね」
「…案の定、氷雨以外の3人は疑問に思っていなかったようだしな」

なんとも寂しそうな顔で、カノンさんは笑う。
ああもう、この三十路双子は…!
どうして三十路で男盛りなのに、いじらしさを感じなければならないのか。
はあ、と一つため息をついて、椅子から立ち上がる。
こちらを伺うような二人に近づいて、カノンさんの目の前に向かう。

「なんでそんなに消極的な方法で、自分が一番傷つく方法で試すんですか」
「っ」
「直接俺を見つけてくれって、俺を見てくれって言っても、いいじゃないですか…もう、カノンさんは隠れなきゃいけない存在じゃないんですよ?」

安心するには体温だろう、という偏見と実体験を混ぜた考えで、ゆっくりとその頭を抱き込む。

「ほら、カノンさんは聖域にいるんです。だから、私と知り合ったんです」

法衣を着たカノンさんが私の腰に手を回す。
ぎゅう、と力を込められて、若干…いや、結構痛い。
折れるとまではいかないけど、軋んでいる。
その青い髪をぽんぽんと落ち着かせるように叩くように撫ぜる。
サガさんを確認しておこうとその顔を見る。
穏やかな、ホッとしたような顔で、こちらを見つめている。
その表情は、大人っぽさ、というよりも、兄らしさが出た顔だ。
それに違和感を感じる。

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