正義 | ナノ



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顔をしかめた彼女はぐっとこちらを見つめて、ぎゅと持ったままの書類を抱きしめる。
ふ、と彼女の纏う小宇宙が変わる。
音楽なのは同じ。
でもどこか、排他的で倦怠感のある、色気を感じさせるそれ。
艶やかささえ見せる彼女がまっすぐにこちらを射抜いた。

「君は、どう思っていて欲しいんだい?」

嘲笑するような顔で、彼女は告げる。
もう一人のサガに見せていた甘さなんて欠片も見せないで。
彼女が受け入れているのは、青銅とサガだけなのだろう。

「俺を、受け入れてはくれない?」
「…生憎と、わたしは誰も…彼ら5人と“私”以外の誰も踏み込ませるつもりはないよ」
「おや、サガは?」
「彼について“わたし”は受け入れただけだ。私は踏み込ませるつもりだろうが、わたしにとって彼は“サガ”でしかないんだよ、英雄“アイオロス”」

彼女が口にする名前は、まるで紙に書いてある名前を読むように味気ないものだった。
普段のその人となりを大切にするような、感情のこもっている呼び方ではない。
思わず眉を寄せれば、彼女は鼻で笑うように肩をすくめた。

「不満か?“英雄殿”?」
「…その呼び方をやめてくれないか」
「君は英雄なのだろう?命を賭して女神を救った」

神経を逆なでするような口調。
俺がやめてくれといった理由も、気が付いているのだろう。
にも関わらず、彼女は俺を薄っぺらい声で英雄と呼ぶのだ。
それがお前の罪だと、逃げることは許さないと突きつけるように。

「氷雨ちゃん、」

名前を呼べば不機嫌そうな顔が、不快に変わる。
つい、笑う。

「俺は決めたよ」
「勝手に決めていれば、」
「氷雨、君に俺自身の名前を呼ばせてみせる」

氷雨の言葉を遮るように告げれば、理解できないという顔で黙り込んで、ただ視線をこちらに向けた。
それからすぐに一度だけ鼻で笑って、小宇宙は普段通りの彼女に戻る。
では失礼します、と頭を下げた彼女。

「じゃあ夕食でね、氷雨ちゃん」

笑えば、彼女は先ほどの氷雨と同じ、理解できないという顔をしていて余計に笑いを起こさせた。

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