正義 | ナノ



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「アイオロスさん?」

不思議そうに見上げる彼女に、なんでもないよ、と笑って見せれば、そうですか、とあっさり頷く。
きっと、これがサガなら違うのだろう。
彼女は息を吐くように気を使って、傍に寄り添うに違いない。
そして彼が、何を言っても、どんなことをしたって、受け入れるのだ。

「君は酷い人だね」
「…突然なんの話ですか、」

先ほどまでの表情とは異なり、硬くなったその顔。
打てば響くように返ってくる言葉に心地よいものを感じる。
が、どうやら、彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。

「俺だって、君に心を砕いて欲しいんだよ?」

ミロは、風邪の時に手当をしてもらったと言った。
特別だと甘やかしてもらって、今まで感じたことのない安心感だったと自慢していて。
カミュは、彼女を弟子の氷河やアイザックを心配するように気にかける。
昨日なんて、あのサガが仕事も何も関係ない、なんでもない頼みごとをしたのだ。
紅茶を淹れて欲しいなんて、今までサガが誰か女官にだって言ったところを見たことがなかったのに。

「…最初から10を求められても、私は答えることなどできません」
「そんなに求めてるかな…?」
「人間関係というのは双方の意思があってこそだと思いますが」

硬い顔のまま彼女は泣きそうな表情をする。
感情が出やすいのは彼女のいいとろこなのだろう。
彼女自身は見せていないつもりではあろうが、彼女の小宇宙は如実に語る。
小宇宙を操る術を知れば、感情を見せず一定に、もしくは相手を騙すために揺らすことだってある。
戦場では必須と言ってもいい、小宇宙の扱いが一定を超えなければ、黄金聖闘士は務まらない。
強さだけであれば、俺たちより星矢たちの方が上で、彼らが黄金聖闘士に成っていてもおかしくない。
それでも彼らが未だに青銅でいるのは、彼らが幼く一定に保ちきれていないからと彼ら自身が青銅を望んでいるからだ。
もちろん、俺たちが生き返ったからという理由も一端には含まれているのではあるが。
自身を偽ることに慣れた俺たちだからこそ、彼女のような素直な小宇宙に安心するのだろう。

「氷雨ちゃん、」
「…なんですか?」

今度は不審そうだ。
表情は一定で、悪感情さえも見せようとすることはない。
きっと気を使っているのだろうとわかる。
ただ、小宇宙が正直者すぎるせいで、ほとんどの情報が伝わってきている。

「君の中のもう一人は、俺についてどう思ってるのかな?」

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