正義 | ナノ



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翌日、執務室に行ったら、土下座された。
思わず無言になって、私の眼の前で平伏しているサガさんを見つめる。
が、サガさんもなにか言うことはなくただただ無音だ。
つい、近くにいるカノンさんに助けを求めるように視線を送る。
深いため息をついて、ガシガシと頭を掻いたカノンさんは、ゆっくり近寄ってきて、サガ、と静かに声をかけた。
ていうか、ギリシアに土下座の文化ってあるのだろうか?ないよね?日本だよねあれ。
カノンさんの言葉にも反応しないサガさんには、多分私が対応しなくては、顔を上げることもないだろう。
よいしょ、と膝をついて目の前に座る。

「サガさん?」
「…すまない」
「えっと…謝られるようなことはされていないんですが」

何かあったっけ?仕事?
首を傾げながら、もしかして、と考えられるのは、昨日の彼の状態であったことだろうか。
でも、ああさせたのは私だし、怒るならまだしもなぜ謝るのか。
顔を上げそうにないサガさんにどうしたものか、とその姿を見る。
なんか、いつかもこんなことがあったような気がする、と思いながら、彼の背中に手を当てた。

「あいつが、まだ私の中にいたなんて…」
「…どういうことです?」

あいつ、とは彼のことだろう。
さっきの発言からすると、消えるようなことが起こっていた、ということで。
問いかけるとサガさんは、アテナの盾で邪悪は消え去ったはずなのだ、と俯いた。

「アテナの盾で、邪悪が?」

詳しく聞いておこうと声をかける。
しとどに泣き濡れているサガさんに、これが聖闘士泣き、なんて思いながらも答えを待つ。
答えてくれるかどうかわからないが、答えてくれたらありがたいなと思いながらじっと見つめる。
サガさんは少し顔を上げて私の目を見る。
無言でその顔を見つめれば、彼は話してくれた。
“サガの乱”と言われるそれの終結のとき、星矢君がさおちゃんに向けたアテナの盾の光を浴びたサガさん。
その時に、体の中から邪悪が抜けて、天に上ったのだという。
だから、邪悪はサガさんの中にはいないのだと、サガさんも、周囲も思っていたらしい。

「なら、“彼”は邪悪な存在ではなく、“邪悪に取り憑かれた”サガさんのもう一つの人格」
「…え?」
「なんらかの切欠で元々あった人格が“邪悪”によって歪められたのだと考えれば、今の“彼”の行動原理が見える気がして…」

苦笑しながら答えれば、ぱちり、とサガさんは瞬いた。
カノンさんも唖然としたような顔でこちらを見つめてくる。
だが、まだはっきりしていないことを本人に告げるのも微妙かな。
口元に手を置いて、んー、と首を傾げる。

「とりあえず、サガさんに謝っていただくことは一つもありませんから、気にしないでください」
「…だが、」
「“わたし”にとって“サガ”さんは思い入れのある存在ですから、私にとっても放っておけないんです」

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