正義 | ナノ



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弾けるような笑顔…というのは成人も過ぎた女に適しているのかはわからない。
だが、それ以外に形容する言葉が見当たらないくらいには、破壊力があった。
見ていたのは俺だけではなかったのだろう。

「随分、親しげなんだね」

にこり、笑ったアイオロスが彼女に言った。
一度ゆっくり瞬いた氷雨は頷いてから、少し考えるように唇のあたりに触れる。

「だって、私にとっての星矢君たちは、聖闘士にとっての沙織様…女神のようなものだもの」

胸の前で指を組んで、その指を見つめるようにしながら、照れたように笑う。
少しだけ顔を上げて隣の一輝、それから仮眠室の他の青銅たちに視線を向けた。
触ったら壊れてしまいそうなほどの儚さを見せながら、笑う。

「ある意味で自分自身以上の絶対的な存在ですから」
「…そんなに、かい?」
「ええ、実は」

儚さは同時に自己嫌悪も含まれていて。
それでも、その笑顔の全体は非常に嬉しそうなそれだ。

「かなり自暴自棄になったこともありまして…」

あはは、と苦く笑って彼女はそのまま頭を下げ、仮眠室に戻る。
青銅たちもその後を追い、すぐに仮眠室に戻っていく。
色々気になることも多いが、それはまだ聞くべきではないのだろう。
俺たちも集中しきれないまま、各々自身の仕事に戻り始める。
中でも、サガに違和感を覚えるのだが、本人は気がついていないようだ。
後で喧嘩覚悟で声をかけておいたほうがいいか、と考えながら自分の手元の書類に視線を落とした。


「あー…聞いておきたいんだが、」
「はい?」
「それ、は?」

今目の前に広がっているのは、氷雨が青銅の奴らにギュウギュウと抱きしめられている状況だった。
へらり、と楽しそうに笑う彼女は幸せそうで。

「私の活力充電中です」

言い切るや否や、ぎゅう、と彼女自身から彼らに抱きつく。
リラックスしているのだろうか、その小宇宙は非常に穏やかに広がる。
包み込むような、人を癒すような、その暖かさは女神に似たものを感じさせる。
違うのは、女神の小宇宙は水のようで、女神から溢れ出ているように感じるところだろうか。
氷雨の小宇宙は、例えるなら、音だ。
他人の小宇宙が空気のようにそこにあることで、彼女の安らぎはより広がりを見せる。
もうしばらく余波を感じていたいとも思うが、伝えるべきだろうと肩をすくめた。

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