正義 | ナノ


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話しかけていたら、突然、彼女が倒れかかってきた。
その顔面は蒼白と言っていい色合いで。
呼吸の荒さから考えると部屋に運んだ方がいいのだろう。
そう思って、肩に担いで運んだ。
彼女の部屋に入ると、そこには資料や仕事が溢れている。
無事なのは、キッチンとバスルームと床くらいなものだろう。
ベッドに寝かせると、彼女は呻いた。
小さく謝罪の言葉を口にし、眉を寄せたまま横を向き身体を丸める。
じっと見ているが、彼女はこちらに気がつかないのか、苦しそうに荒い呼吸を繰り返した。
呼吸が落ち着いてすぐにゆっくり起き上がって、こちらをちらとも見ずに、枕元の書類に何か書き始める。

「寝ていればいいだろう?」
「頼まれた…ものを、こなさなくては、此処に存在する意味を無くします」

彼女は自分が望まれているのではなく、仕事が望まれているのだと、そう言いたいのだろう。
彼らの最近の様子を見ているそうとは思えないけれど。
彼女自身は頑なに、こちらに心を開こうとはしない。
もちろん、皆気がついているからこそ、余計構うのだろう。
誰か一人でもキツく当たれば、むしろ他との距離が近寄るかとも思ったのだが…。
そう言うこともないらしい。
と、いうよりも、元から一定の距離以上に近づくつもりがないようにも見えた。
近づいてみるよりも、遠くから観察している方がわかることもある。
そんなことを考えながら、ぼんやりと彼女を見ていれば、ふと扉の方に視線を向けていた。
どうかしたのだろうかとその扉を開く。
そこには、シュラが驚いたように立っていた。

「シュラ、どうかしたのかい?」
「…アイオロス、こそ」

ぎこちなく視線を逸らされて、ため息を吐きたくなる。
が、そんなことをすると逆効果なのはこの三年で嫌という程学んだ。
どうすればいいのかと頭を抱えたくなるが、個人的に昔のように可愛がれないのが淋しい。
とは言え、最近は少し硬さが取れてきたように思う。
吹っ切れ始めたのか、それとも、彼女の影響か。
どちらであれ、可愛がれるのであれば構わないのだが、考察していると、彼女がふらりと立ち上がっている。

「ごめんなさい、シュラ…ええと、この時間だし…書類、ですよね?」
「ああ…それから、夕食について何が食べたいか聞きたいんだが…」
「ちょっと、待ってくださいね」

彼女は額に手の甲を押し当てながら、ぼんやりと辺りを見回す。
それから机の上に置いてある書類を手に取って、ペラペラと捲り始めた。
数秒で見終えたらしいそれをもう一度同じ所に置いて、その辺りの書類も同様に確認し、重ねる。
枕元の書類を手に取って、じっと見つめて、上から何枚かだけを取り分けて、手元に残ったものは机に置く。
次にソファーの書類を確認しながら、これは日本の方か、と小さくひとりごちる。
天井を見上げるように上を向いて、指を折り始めた。
その間、シュラも何も喋らない。

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