正義 | ナノ



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小さな彼を安心させるように笑みを浮かべて、その茶色の髪を撫でる。
目を細めて、嬉しそうにしてくれる貴鬼くんに癒されてから、もう一度お茶を飲んだ。
今度は、同じ暖かさが、ゆったりと安心感をもたらした。

「ねえ、ムウ様!おいら、もう一ヶ所お姉ちゃんを案内したい場所があるんだけど…」
「いいですよ」

仕方ない、と言うように笑うムウさんは、ある種の愛情を持って、貴鬼くんに接しているようだ。
師弟なのだから、当たり前ではあるけれど、その表情を目の当たりにして、何処か幸せな気持ちになる。
ただ、それと同時に、やはり、ホームシックなのか、少し、寂しくもなる。

「行こう!」

私の手を引く彼に、笑いながら頷いて、その場を離れた。
手に持った仮面をもう一度、顔に近づけて、聞こえないように小さくため息を吐く。
アイオロスさんといると、心が休まりそうもない。
ただでさえ、今現在ホームシックで弱く脆くなってしまっているのだ。
そんな私の意識を読み取ったのだろうか、貴鬼くんが少し不安そうに私を見上げる。

「平気?疲れた?」
「ありがとう、貴鬼くん、大丈夫だよ」

彼の柔らかな髪を撫でると、納得したように頷いて、次は海が一望できる場所へ連れて来てくれた。
いつの間にか追いついていたムウさんと三人で潮風に当たる。
ぼんやりと、海を見つめた。
崖の下に広がる海はとても大きくて、圧倒される青だ。
母なる海、という言葉を思い出し、ため息を吐いた。

「お姉ちゃん?」
「大きいなぁ、と思ったの」

ああ、また心配をかけてしまった。
眉を下げて、貴鬼くんと視線をあわせる。
彼はじっと私を見てから、手を差し出してきた。
その手をとると、体温がじわりと伝わる。

「わ、すごく冷たくなってるよ!」
「おや、なら、戻りましょうか」

驚いたような顔をするムウさんにすみません、と言葉を返して、貴鬼くんと並んで歩いた。
貴鬼くんの向こう側には、ムウさんも穏やかな表情を浮かべている。
繋いだ手から伝わってくる温もりが、酷く、優しくて。
仮面の奥で、涙が滲んだ。
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