正義 | ナノ


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自身の仕事を一段落させ、時計を確認する。
そろそろ休憩してもいい時間だろう。

「ミロさん、リア、好きなタイミングで休憩してくださいね」

二人に声をかけて仮眠室に向かう。
紅茶を入れ、執務室に戻って二人の机に置いた。
それからもう一度、仮眠室に戻って、ソファーに座る。
ゆっくり深呼吸をすると、重力が増したかのように、腕ひとつ動かすのも億劫になる。
ズルズルと横になりたいと思うが、それをやったら負けだと思う。
色々な意味で。
それに、寝るのなら、自分の部屋に戻るべきだろう。
ふーっ、と気合いを入れ直して息を吐いた。
その直後、扉が開かれ、ムウさんが現れる。
すぐに体に力を入れて、体勢を整えた。

「昨日から、少し考えてみました」
「はい」

頷きながら、私の隣に座ったムウさんの瞳をじっと見つめる。
何か思いついたのか、それとも今までずっと溜まっていたのか。
そのどちらなのか私は知らないが、彼は言葉を紡いだ。
堰を切ったように、と言っても過言ではないだろう。
息を吐く間もなく、彼は自身の想いを、それから、彼らに寄り添って考えたのだろう意見を口にした。
話すことで人の考えは整理されるものなのだ。
30分は話していただろうか、ムウさんが、ふと口を噤む。
私は静かに席を立って、紅茶を入れた。
その紅茶をムウさんに差し出して、改めてじっとムウさんと視線を合わせる。

「ムウさんは、どうしたらいいと思いますか?」
「…え?」
「彼らの意見を考えて、その結果、どうして彼らが協力しないのか、はわかったと思います」
「そう、ですね」
「なら、どうしたら、彼らは聖衣の修復に協力してくれると考えますか?」

そう告げると、彼はぱちり、と瞬いた。
紅茶を一口飲むと、向こう側から苦笑する声が聞こえる。
ふと、思いついて、彼を見る。

「これは勝手に思ったことなんですが…」
「はい?」
「後から回収できないなら、先に回収しておけばいいのでは?」

ぽかん、と彼の口が開かれた。
最初に受け取るときに、血を抜いて渡さないといけない、みたいな。
それを儀式みたいにしちゃえば…と思ったけど、血液ってすぐ使わないといけないのかな。
そうだったら、どうしようもないんだけど…。
と、一人考えながら、唸っていると、くすくすと笑う声が聞こえた。

「確かに、後でアテナに言ってみましょう」

楽しそうに、目を細めた彼はそっと手を差し出してくる。
きょとん、と首を傾げながら、その手をとる。

「これからもよろしくお願いしますね、氷雨」
「…!はい、こちらこそ、よろしくお願いします」

私はどうやら認められたらしい。
ちゃんとできていないカウンセリングで一体どうやって認められたのか。
全然わからないが、それでも、彼はにっこりと笑ってくれる。
もちろん、見極めるために近寄ってくるのでも、歩み寄ってもらえるというだけで嬉しい。
はっきりしない頭でぼんやりと考える。
ふと、時計を見て、仕事に戻らなくては、と立ち上がった。

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