帰郷
私の声に沈黙が落ちた。
巫女姫が頷いてくれなそうだが、私はただ、頭を下げ続ける。
土下座程度で帰れるのなら、私はいつまでも膝をつこう。
「…うん、わかった」
「本当、か?」
巫女姫は静かに声を出して、私に携帯電話を差し出した。
頷きの声を聞いた段階で驚きに顔を上げていた私は、差し出されていた携帯電話を手に取る。
久しぶりすぎる携帯だが、それでも扱い方は覚えている。
メールを見てと言われ、示されたメールを見る。
帰るための方法がそこには記されていた、が。
「ッ、」
慌てて、携帯と巫女姫を引き寄せ自身を壁にする。
背中に刺さった撃剣に、やはりか、とため息を吐いた瞬間。
巫女姫のいた場所でガオーと描かれた虎が咆哮した。
「…二人とも、何のつもりだ?」
「君を帰すわけにはいかないからね」
「ホントホント!氷雨ったら、俺たちを簡単に捨てようとするんだから」
不満そうに見えるその二人の顔にはうっすらとした笑みが確認出来る。
携帯を巫女姫に渡して、背中に庇う。
「捨てる?人聞きの悪いことを言わないでもらおうか」
捨てるも何も、拾っていない。
口角をつり上げて微笑んでみせた。
と、彼ら二人の後ろに、蜀の武将たちと他国の数人の軍師たちが並ぶ。
どういうつもりなのか、とゆるゆると羽扇を動かす諸葛亮に視線を向けた。
「あなたを逃がすつもりはありませんよ」
「ははっ、私は愛玩動物だとでも言うつもりか?化け物を飼ったところで、それは戦しか呼ばないさ」
言いながら先ほどのメールの内容を思い起こす。
この場には、その条件が揃っている。
今しか無いだろう。
「伸るか反るかの賭け事は好きじゃないんだが…巫女姫、私の力をすべてお前に移そう」
ちらりとだけ振り返り彼女に告げる。
こくりと頷いた彼女に、満足に思って笑った。
彼女から少し離れて、自分の撃剣を抜く。
目の前に持ってきて自分自身と目をあわせる。
「ああ…この色だ…私の目は、間違いなく」
撃剣を投げ捨てながら足を止めることなく、ゆっくりとその人間に近づいた。
甘く微笑んで、その首に腕を絡ませる。
驚いたような顔をしている相手にそっと囁いた。
「君のことは中々気に入っていたんだよ」
唖然とした顔に笑って、軽く口付ける。
帰郷すぐに離れて、迅雷剣を自身に向け、引き寄せる。
ずぷりと自身に突き刺さる冷たさを感じながら、私は口元を緩めて目を伏せた。