懇願
ついに、この日が来た。
喜びに打ち震える身体を落ち着けて、ゆっくりとその部屋に入った。
その場には数多くの武将たちが並んでいる。
だが、そのようなこと視界に入らない。
私の視線はただ、正面に立つ巫女姫にだけ、向けられている。
「やっと…だな。君に会うこの日を、夢見て生きてきたよ」
私の言葉に、巫女姫が息をのんだのがわかった。
その程度で私は言葉をやめることはない。
「どれ程に餓えても、石を投げられても、他人や自身を傷つけてまで、君だけに会うため、生きてきたんだ」
うっとりと笑ってみせれば、彼女は身体を震わせた。
恐怖だろうか、それとも、嫌悪だろうか。
そのどちらでも良かった。
ただ、これで終われるのだと、終わりに出来るのだと、盲目的に信じているだけだ。
「巫女姫…いや、姫華殿、と言った方がいいかな?」
言いながら、仮面を外す。
青い目で真っ直ぐに見つめた。
彼女は驚いたように私を見て、次の瞬間、怒りを瞳に映す。
「あなたが、力を…!」
「それについて、話をしにきただけだ…君は、そもそも、どうしてこの世界を望んだ?愛されたいからか?」
「ッ…平和にしたかったのよ!」
その顔は侮辱されたと感じているようだった。
目を使って視ても、どうやら本当のことらしい。
私に備わってしまった力を使って、彼女は、自分自身でこの乱世を収めたかったようだ。
過程でハレムの形成を目論んだ、というところか。
陳腐すぎて吐き気がする。
その願いの所為で、私はすべてを失ったのかと思うと、いっそのこと笑ってしまいたい。
「だったら、目も、回復能力も、戦闘力もお前に返そう」
私の言葉に、驚いたような視線が向かってくる。
気にせず言葉を続けた。
「今まで回復した傷をもう一度負ったって構わない。それで、死ぬことになろうと、後悔はない」
「!」
「代わりに、一つ。ただ一つだけ、君の持つものを私に与えてくれればいい」
少女は不審そうに私を見る。
それから、静かに頷いた。
交渉成立なのだろう。
私はゆっくり口を開いた。
「君の、一つの可能性を私に与えてほしい…君だけが持つ、元の世界に帰れる可能性を」
不気味なほどに静まり返った室内には気がついた。
しかし、この程度で私自身の行動を止めるわけにはいかない。
「私に、友を、家族を…世界を、返してほしい」
懇願その場に膝をつき、頭を下げる。
頼む、振り絞った声は酷く掠れていた。