使者
巫女姫が蜀に到着し、私たちの城に着いたのとほぼ同時で、魏と呉の使者が送られてきた。
しかも、使者というには余りにも地位の高い人間が来ている。
「…巫女姫はどうした?」
「今、姜維と馬岱殿の二人を部屋に呼んで閉じこもっていますよ」
「そうか」
仮面に触れて、視線を下げた。
仕方あるまい。
今まで蝶よ花よと持ち上げられていた人間が、彼女にとっては無理の多い旅をした訳だ。
実際は無理が多いどころか、かなりゆっくりでよく途中で捕まらなかったなといえるレベルなのだが。
…そこは仙人の力だろう。
「ところで氷雨、本当に彼らに会うつもりですか?」
「それ以外に方法はあるのか?」
仮面を外して、ベールを被る。
動きにくい服装を一度見てから、口元に笑みを浮かべてみせた。
それから、使者がいるその部屋に向かう。
ひらひらしている衣装に気を使いながら、ゆっくり扉を開く。
使者たちの視線がこちらに向くのを感じながら、スルー。
用意されている席について、足を組んだ。
「さて、蜀に一体何用だ?」
いつもより少し声を低くして、問いかける。
偉そうに見えるようにしているつもりだが、どうだろうか。
視線を下げると、魏は司馬懿に司馬師、更には曹丕、呉は孫策に周瑜、それから太史慈。
なんで君主に近い人間が他国にサラッとやってきているのかと、小一時間問いつめたいのだが。
「姫華は何処だ?」
「しんか…?」
曹丕の言葉に首を傾げる。
それから、気がついた。
…巫女姫のことか。
「ああ、巫女姫か…そんな名前だったのか、覚えておこう」
「此処に居るのに名前を知らないのか?」
「巫女姫と会ったのは戦場で、名前など聞く暇はなかった」
あっさりと言い切れば、そんなはずは無いと大きな声が返ってくる。
その言葉に眉を寄せるが、多分、彼らからは見えないだろう。
何故そう言いきれるのかと隣にいた徐庶があざとく首を傾げた。
あざといなーと思いながら視線を彼らに戻す。
と、どうやら、彼らは蜀に“天女”がいる、と聞いてやってきたらしい。
まあ、巫女姫も自分のことを天女と自称していたらしいし、実際に来てはいるけど。
「私のことだ、生憎と君たちが探している存在ではない」
言いながら、ベールを取る。
首を傾げながら、彼らを順に見やった。
都督殿と少年は驚いたような顔をして私を凝視する。
立ち上がって、彼らに近寄りながら、少年の前で膝をついた。
使者少年の表情は何処か怯えていて、申し訳なく思う。
とはいえ、すごく美人になりそうな顔で、その目を見つめた。