面倒
その巫女姫を掴まえて、どちらかに渡せばいいのではないのか?
不思議そうに告げる彼に、それも一つの手ですが、と無表情に返す。
ふわりと羽扇を動かした諸葛亮がこちらを見て告げた。
「何か問題があるんですか?」
「…無いと言えば無いな。ただ、何もなしに渡すとなれば、もう片方を立てる必要があるだろうな」
「君が行くつもりか?」
「私以外の可能性も十二分にある。とはいえ、この地から離れられるのは私くらいだろう?」
無言になった彼らは顔を見合わせてから、首を左右に振る。
隣の劉禅様も、何故か私の手を掴んだ。
無言になって肩をすくめる。
「それがいやなら他の案を出せ、ということですか…」
「私は巫女姫と話せるなら、その後はどうなってもいいからな」
「…どうなっても?」
徐庶が剣呑な光を瞳に浮かべた。
じっと見つめてくるその顔にこくりと頷くと、彼は驚いたようにして笑う。
「俺が巫女姫様と話す機会を作ったら、俺のお願いも聞いてくれるんだね?」
「聞いてやるよ、とはいえ、このままならその時間を作ってもらう必要も無いだろうが」
答えて、肩をすくめる。
それからは真面目に話し合いを始めて、最終的に、一応軍備を整えておくべきだという話にまとまった。
最初からそれ以外の選択肢は無かったと言ってもいいだろう。
大体話がまとまったところで、ホウ統が私を見る。
「お前さんにも、巫女姫さん蜀に連れて来ようとしているのが誰かわからないのかい?」
「力のある人間であることには違いないだろう…そうすると、仙人か?」
仙人、で無双?
すごく嫌な予感がする。
勝手に蜀のため、大徳のためと行動するあの仙人ではなかろうか。
そうであった場合、仙人さえも堕ちる魅力ということか。
しかし、恋に落とす手順を果たして仙人に使うのか、と言うところでもある。
そう考えると、ただ愛されるためだけに、この世界を崩壊させたとも考えにくい。
いや、この辺りは本人に聞けばすぐわかることだ。
首を左右に振って、雑念を消して伝えておくべきことを口にする。
「ああ、それから、呉は一番年下の軍師以外の軍師はほぼ目が覚めているな」
「周瑜殿と魯粛殿、呂蒙殿ですか?」
「そうだ。魏は、張来来に隻眼、軽薄軍師にあと少年が二人、堕ちていない」
「それは、」
「赤壁で私が対峙した人間だ………全員堕ちていれば、楽で良かったのになぁ」
はあ、と小さくため息を吐いて、しかも面倒くさい面々が残っているのだ。
チッと舌打ちを隠さずにしてから、これから起こる面倒ごとに今度は深々とため息を吐いた。
面倒夕方からの軍議には顔だけ出して、あとは軍師たちに任せる。
決着はすぐそこまで来ていた。