転換
君主殿は呉と魏どちらからも連絡が来たと告げた。
呉からはこの間の赤壁の時の借りを返してくれと援軍要請。
魏からは荊州を渡すから呉に対して共に戦ってくれと同盟要請。
「皆はどうするべきだと思う?」
静かに告げた君主殿は、ゆっくりと全員を見回した。
どうするべきか、と問われたところで、私は残念ながら蜀のための意見は出せない。
結果的に、どっちの言葉も断わり、最終的に共倒れを狙えとしか…。
巫女姫の命を奪わないでいてくれればそれで構わない訳で。
ぼんやりとそれぞれが意見を言っていく様子を見ておく。
呉を押す面子が多いが、中には魏を押してくる面々もちょくちょくいた。
無論、共倒れを狙う意見もあるし、結局まとまらないのではないかと思うのだが。
「李雪殿はどうだ?」
「…呉は巫女姫を取り戻すのが目的だろう?問題は、魏の何処までが巫女姫に堕ちているか、だろうな」
それによって話は変わる、と匂わせるように告げる。
いっそのこと、こっちから戦いに行ってもいいんじゃね?と思わないでもない。
どういうことだ、と言う声が上がるので、面倒だなぁと思いながらも説明する。
「魏の半数以上が堕ちていると、呉と魏の戦いは完全に泥沼になる。ヘタに関わると巻き込まれるぞ?」
「あなたがそう言うのであれば、そうなのでしょうね」
「視てはいない…だが、恋には狂気が潜んでいると聞いた。違うのか?」
首を傾げて見せれば、視線の先にいた諸葛亮が困ったように羽扇を動かした。
答えは無いが、どうやら私の意見には同意らしい。
諸葛亮は私の視線から逃れるように劉備に視線を向けて、如何なさいますか?と問いかけた。
困ったような君主殿は、どうしたものかと顎に手を当てる。
その目はちらりと私を見た。
「言いたいことがあるのなら言え。今は君主殿の部下だ、力を欲するなら使えばいい」
「…すまない、力を貸してくれ。我々は、どうするべきなのか」
「私は道を視るだけだ。目的は?天下か?民か?巫女姫か?」
「民の安寧だ」
その言葉に頷いて、ゆっくり移動する。
風の吹く窓際に向かって、仮面を外した。
目を伏せ、何かを掴むように左手を伸ばす。
この蜀の、そして、戦に巻き込まれている魏と呉の民を救うためにはどうするべきか。
いや、今のそれぞれの状況から調べた方がいいか。
「…呉、は…軍師以外…か?…魏は、…?!まさか…いや、そんなはずは無い…」
一瞬で目を見開く。
驚愕で集中が途切れ、一度手に視線を落とす。
深呼吸をして、もう一度、今度はこれからするべきことを視た。
「どうやら、悠長にしている暇も無さそうだな…君主殿、民を守りたいのなら、即刻、天下を治めろ」
「私が、今、天下を?」
「ああ、そうだ。それから、孔明、士元、元直、話がある…此処からは一刻の猶予もない」
転換巫女姫が逃げ出すなど、誰かの手引きが無くては出来ようはずもない。
しかも、その逃げようとしている先が、蜀…この地だ。